
外資系株式会社の設立と外為法対応の実務ガイド|行政書士法人塩永事務所
外国企業が日本法人を設立する場合は、会社法上の設立手続に加えて、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)に基づく対内直接投資等の手続(事前届出・事後報告)を検討する必要があります。
外為法上の手続は、投資家の属性、投資行為の類型、日本法人の実際の事業内容、出資比率などによって異なります。事前届出が必要な案件で、届出前や所定の審査・待機期間中に投資を実行すると、中止勧告・命令や罰則の対象となるおそれがあります。このため、会社設立のスケジュールと外為法の手続は、一体で設計することが重要です。
本記事では、外資系株式会社の設立手順と外為法対応について、実務上の注意点を含めて解説します。なお、本記事は一般的な情報提供であり、個別案件の結論は、投資家自身による法令確認と専門家の検討を踏まえて判断する必要があります。
1.外資系株式会社とは
「外資系株式会社」は法律上の会社類型ではなく、外国法人や外国人などが出資する日本の株式会社を指す通称です。
外国企業の日本進出には、主に次の方法があります。
- 日本法人(株式会社、合同会社など)を設立する
- 外国会社の日本支店を設置する
- 既存の日本企業に出資し、資本業務提携を行う
- 既存の日本企業の株式を取得して子会社化する
どの方法が適切かは、事業内容、出資構成、経営管理の方法、取引先との関係、税務・会計方針などによって異なります。
外国法人が発起人となって設立時発行株式を引き受けることは、会社法上の要件を満たす限り可能で、株式の全部または大部分を外国法人が保有する形態も認められます。ただし、会社法上設立できることと、外為法上の届出・報告が必要かどうかは、別々に確認しなければなりません。
2.設立前に確認する事項
(1)外国投資家の情報
外為法上の「外国投資家」には、非居住者である個人、外国法人のほか、これらが一定割合(50%以上)を出資する日本の会社等も含まれます。外国法人の国籍や所在地だけで結論は決まらず、株主構成や支配関係も確認します。
- 外国法人の正式名称、所在地、設立準拠法
- 法人格の存続を確認できる資料
- 代表者および投資判断の権限を有する者
- 出資の意思決定を証明する決議書等
- 株主構成や実質的な支配関係
- 出資資金の拠出者と送金経路
(2)日本法人の事業内容
事前届出の要否は、定款の事業目的だけでなく、実際の事業内容で判断します。
- 実際に提供する商品・サービス
- 取扱製品、設備、部品、技術の具体的内容
- 製造、加工、修理、保守、検査、輸出入などの業務範囲
- 主要な取引先、事業分野、将来追加する事業
- 非公開の技術情報へアクセスする予定の有無
事業目的が広範な場合は、現在予定している事業と将来の事業計画を分けて整理します。
(3)出資比率と株式取得の方法
次の類型では、検討すべき手続が異なります。
- 設立時発行株式を引き受ける場合
- 既存の日本法人の株式を取得する場合
- 他の外国投資家から非上場会社の株式を取得する場合
- 間接的に株式を取得する場合
- 既存の出資比率を変更する場合
「90%保有」などの出資比率だけで、事前届出の要否は決まりません。投資行為の類型、投資家の属性、対象事業、免除制度の適用可否を合わせて確認します。
3.外為法の対内直接投資等の制度
外為法は、国の安全、公の秩序、公衆の安全、経済の円滑な運営などの観点から、外国投資家による一定の投資に事前届出や事後報告を求めています。公式の案内は次のとおりです。
- 財務省:https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/fdi/index.htm
- 日本銀行:https://www.boj.or.jp/about/services/tame/t-down.htm
検討の主な項目は次のとおりです。
- 出資者が外国投資家に該当するか
- 予定する行為が対内直接投資等に該当するか
- 実際の事業が事前届出対象業種(指定業種)に該当するか
- 事前届出免除制度を利用できるか
- 事前届出、事後報告その他の報告が必要か
- 提出者、提出先、提出時期、必要書類
4.事前届出の要否の判断
事前届出の要否は、投資家自身が法令・告示等に基づいて判断するのが原則です。財務省は相談窓口や案内を公表していますが、専門家が関与しても、法令上の義務や行政機関の審査が不要になるわけではありません。
(1)事業内容と対象業種の照合
日本法人の実際の事業を、事前届出対象の業種区分と照合します。たとえば機械設備の保守・修理業でも、対象設備、技術、顧客、修理内容によって該当する区分が変わり得ます。業種名だけで機械的に判断せず、業務内容を具体化して確認します。
(2)事前届出免除制度の確認
一定の外国投資家は、免除基準(役員に就任しない、非公開の技術関連情報にアクセスしない等)を遵守することを条件に、事前届出の免除を利用できる場合があります。ただし、投資家の属性や業種によっては利用できません。また、免除を利用した場合も、基準の遵守と事後報告が必要です。
(3)関係省庁等への照会
業種区分の解釈に疑問がある場合は、事業所管省庁や財務省の相談窓口等に照会します。次の情報を整理しておくと、論点が明確になります。
- 出資予定者の情報と日本法人の設立計画
- 定款上の事業目的と、実際に提供する商品・サービスの詳細
- 取扱製品・設備・技術の説明
- 投資実行の予定時期
- 判断に迷う業種区分や法令上の論点
照会先が個別案件の要否について結論を示すとは限りません。投資家自身の確認と専門家の検討を組み合わせて進めます。
5.事前届出が必要な場合
(1)届出書類の準備
投資行為の類型に応じた所定の様式を使用します(日本銀行のサイトに様式と記入の手引があります)。一般に、次の情報を整理します。
- 外国投資家の名称・所在地等
- 投資先の日本法人の情報
- 投資の目的・内容、取得株式数、出資額、出資比率
- 日本法人の事業内容と対象業種との関係
- その他、様式・記入要領が求める事項
なお、2026年改正により、国の安全等のリスクを軽減する措置(リスク軽減措置)が届出事項として明確化されます。施行後は、様式・記入要領の改訂を確認してください。
(2)提出先・提出方法
提出先や提出方法は、投資行為の類型や投資家の属性で異なります。日本銀行が様式や手続案内を公表しており、オンラインで提出できる手続もあります。
(3)待機期間と投資の実行時期
事前届出の対象となる場合、届出の受理後、原則30日間の待機期間があります。案件により短縮または延長されることがあり、審査の結果によっては、中止や内容の変更を求められる場合もあります。
会社設立では、株式の引受け、出資金の払込み、設立登記の各時点が、投資実行との関係で問題になり得ます。事前届出が必要な案件では、どの行為をいつ実行するかを整理したうえで、日程を設計してください。
6.事後報告が必要な場合
外国投資家による非上場会社の株式取得は、事前届出が不要な場合でも、原則として事後報告の対象となります。例外(報告が不要な類型)も法令で定められているため、個別に確認します。
また、事前届出免除制度を利用した場合にも、事後報告が必要です。報告期限は、投資行為の種類に応じて法令・様式で定められています(一般に、取得後45日以内とされています)。「事前届出が不要」と確認して終わりにせず、事後報告が残っていないかまで確認してください。
7.設立手続の流れ
株式会社の発起設立は、定款の作成・認証、出資の履行、設立時役員の選任、設立登記の順に進みます。法務省の案内:https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00134.html
(1)基本事項の決定
商号、本店所在地、事業目的、資本金、発行可能株式総数、設立時発行株式数、発起人ごとの引受株式数と出資額、役員構成、事業年度、公告方法、株式譲渡制限の有無などを決めます。外国法人が発起人となる場合は、証明資料に基づき、名称・所在地を正確に記載します。
(2)外国法人の必要書類
設立国・地域の制度や登記申請の方法によって異なりますが、次のような資料が必要になることがあります。
- 外国法人の存在を証明する登記・登録情報
- 代表者・署名権限を証明する資料
- 設立や株式引受けに関する決議書等
- 署名者の本人確認資料
- 日本語訳、公証、認証、アポスティーユ等
必要な資料・証明方法は個別に確認します。
(3)定款の作成と認証
定款を作成し、公証人の認証を受けます。外国法人が発起人の場合は、名称・所在地等の記載を証明資料と整合させます。
(4)出資金の払込み
発起人の口座への払込み等、所定の方法で行います。海外送金は、金融機関の確認等に時間がかかるため、送金予定日を日程に反映し、事前に金融機関へ確認します。登記に必要な払込みの証明資料も準備します。事前届出が必要な案件では、払込みの時期が投資実行と評価される点にも注意が必要です。
(5)設立登記
本店所在地を管轄する法務局に設立登記を申請します。株式会社は設立登記によって成立します。登記の申請代理は司法書士または弁護士の業務範囲のため、当事務所では司法書士等と連携して対応します。
8.設立後に必要となる主な手続
- 税務署・都道府県・市区町村への設立関係の届出、税務上の手続
- 社会保険・労働保険の手続
- 銀行口座の開設
- 許認可・登録・届出の確認
- 事業所・設備の契約
- 外為法上の事後報告等の確認
- 外国人役員・従業員が就労する場合の在留資格の確認
外国法人が株主になることと、外国人が日本で就労・在留する要件は別の問題です。在留資格の要件は改正されることがあるため、申請時点の最新情報を確認してください。
9.外為法と輸出管理規制は別の制度
対内直接投資等の手続は、外国投資家による日本企業への投資を対象とする制度です。これに対し輸出管理は、貨物の輸出や技術の提供について、貨物・技術、仕向地、需要者、用途に応じて許可等を求める制度で、輸出貿易管理令や外国為替令などが関係します。
半導体関連設備の保守・修理や技術情報の提供などを行う場合は、投資手続とは別に、輸出管理上の確認が必要です。
10.2026年の外為法改正に関する注意点
2026年6月5日、対内直接投資審査制度の高度化を目的とする「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」(令和8年法律第30号)が公布されました。施行日は、一部を除き、公布から1年を超えない範囲で政令で定められます。
主な内容は、リスク軽減措置の届出事項としての明確化、海外法人等を介した間接的な支配権強化への対応、非指定業種への投資に対する事後的な対応、対日外国投資委員会の設置などです。財務省の公表資料:https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/press_release/20260312152131.html
設立準備から投資実行までに期間が空く場合は、投資実行時点で適用される法令、施行日、経過措置、政省令・告示を再確認してください。
11.当事務所のサポート内容
- 初回相談・事実関係の整理:外国投資家、出資比率、事業内容、役員構成、設立予定日、資本金等を確認します。
- 外為法上の手続の検討支援:関係法令・告示・公表資料に照らし、事前届出や事後報告の検討を支援します。
- 届出・報告書類の作成支援:様式、記入要領、添付資料を確認し、書類作成を支援します。
- 関係機関への照会の準備:照会事項の整理と、事業・投資計画の説明資料の作成を支援します。
- 設立書類の準備・専門家との連携:定款等の準備を支援し、司法書士、公証人、税理士等と連携します。登記申請など他士業の業務は、適切な専門家と連携して対応します。
- 設立後の手続の確認:事後報告、税務・社会保険、許認可、在留資格、輸出管理等の確認事項を整理します。
12.期間と費用について
期間は、外国法人の証明資料の取得、翻訳・認証、事前届出の要否と審査・待機期間、海外送金、追加手続の有無などで変わります。事前届出が必要な案件では、設立予定日からではなく、投資実行日から逆算して準備することが重要です。
費用は業務範囲によって異なるため、事業内容や出資構成を確認したうえで、対応範囲と報酬をお見積りします。
13.ご相談について
外国企業による日本法人の設立では、会社法上の手続と外為法上の手続を別々に進めるだけでは不十分な場合があります。出資の実行時期、届出の要否、対象業種の確認、外国法人の証明資料、海外送金、設立登記を関連付けて、適切な順序で進めることが重要です。
「外国法人が株式の大部分を保有するが、届出が必要か分からない」「事前届出と設立の順序を整理したい」「外国法人の書類の準備方法が分からない」といった場合は、投資計画の初期段階でご相談ください。
行政書士法人塩永事務所
