
鳥獣被害防止総合対策交付金とは?
有害鳥獣処理施設・ジビエ処理施設の整備に活用できる補助制度を行政書士が詳しく解説近年、全国の農山村地域では、イノシシ、シカ、サル、クマなどによる農作物被害や生活環境への被害が深刻化しています。鳥獣被害は農作物の損失にとどまらず、捕獲後の処理方法、ジビエとしての有効活用、処理施設の整備といった「捕獲後の対策」も、自治体にとって重要な課題です。
農林水産省は「鳥獣被害防止総合対策交付金」を設け、鳥獣被害対策、捕獲鳥獣の利活用、処理加工施設や焼却・減容化施設の整備、人材育成、ICT導入などを幅広く支援しています。特に令和8年度(2026年度)は、食肉利用等施設だけでなく、焼却施設・減容化施設の整備も支援対象として明確に位置付けられており、有害鳥獣処理施設の整備を検討する自治体にとって重要な制度です。
本記事では、鳥獣被害防止総合対策交付金について、制度の概要、利用対象、対象施設、補助率・上限、有害鳥獣処理施設への活用方法、申請のポイント、行政書士に依頼できる支援内容を、行政書士法人塩永事務所が解説します。
1.鳥獣被害防止総合対策交付金とは鳥獣被害防止総合対策交付金は、農林水産業等に被害を及ぼす野生鳥獣について、地域関係者が一体となって被害防止に取り組むための国の交付金制度です。市町村が作成する「被害防止計画」に基づき、捕獲等の被害防止対策と併せて、捕獲した個体を地域資源として有効活用する取組を支援します。令和8年度の制度では、野生鳥獣被害の深刻化・広域化に対応するため、主に以下を支援しています。
- 地域一体となった鳥獣被害対策
- 捕獲した鳥獣のジビエ利用
- 焼却・減容化等による処分
- 処理加工施設等の整備
- ジビエ商品の開発・販路開拓
- 衛生管理認証の取得
- 人材育成
- ICTシステムの導入
- コンソーシアムによる取組
単なる「獣害対策のための補助金」ではなく、捕獲から処理・利活用・販売までを地域の仕組みとして構築することを支援する制度です。
2.特に重要なのが「被害防止計画」交付金の採択要件として、被害防止計画が作成されていること、または作成されることが確実に見込まれること等が示されています。施設を造りたいから補助金を申請するのではなく、地域の鳥獣被害防止対策の中に施設整備を位置付け、その計画に基づいて事業化するという考え方が重要です。
自治体が有害鳥獣処理施設の整備を検討する場合は、まず以下を整理してください。
- 地域でどのような鳥獣被害が発生しているか
- どの鳥獣をどの程度捕獲しているか
- 捕獲後の処理にどのような問題があるか
- 現在の処理方法の課題
- 新たな処理施設が地域の被害防止にどう貢献するか
- ジビエ利用が可能な個体の利活用方法
3.有害鳥獣処理施設は補助対象になるのか?令和8年度の農林水産省資料では、焼却施設や減容化施設の整備が支援対象として明確に示されています。「鳥獣被害防止総合対策交付金について(ジビエ関係)令和8年度版」では、食肉利用等施設、焼却処理施設及び減容化施設の整備について、経費の2分の1を支援する制度が記載されています。制度上、食肉利用等施設と焼却施設(減容化施設を含む)は「処理加工施設」として整理されています。「捕獲後の処理に困っている」自治体に対し、捕獲→搬入→処理→ジビエ利用または焼却・減容化という地域の処理体制を構築する事業として提案可能です。ただし、個々の施設・設備・経費がすべて自動的に対象になるわけではなく、具体的な対象経費は当該年度の交付要綱、実施要領、公募要領等で確認が必要です。
4.令和8年度の主な補助率・上限施設整備については「1/2以内等」の支援が基本です。特に重要なのが施設面積に応じた交付金額の上限です。
- 食肉利用等施設:24.8万円/㎡
- 焼却施設:38.1万円/㎡
例えば、焼却施設100㎡の場合、38.1万円×100㎡=3,810万円が上限計算の基礎となります。これは「建設費の全額について3,810万円が補助される」という意味ではなく、実際の交付額は補助率、対象経費、施設面積、事業内容、予算、採択時の評価、その他の交付条件を踏まえて決定されます。「上限額=必ずもらえる補助金額」ではない点に注意が必要です。
5.処理施設以外にも支援対象があるこの交付金は施設建設だけの制度ではありません。令和8年度のジビエ関係資料では、以下のような幅広い支援が用意されています。
① 捕獲鳥獣のジビエ利用・処分
ジビエ利用、焼却処分、減容化処分、埋設処分などを支援。焼却・減容化については、運搬費、焼却費、減容化経費などを定額で支援する仕組みも示されています。
ジビエ利用、焼却処分、減容化処分、埋設処分などを支援。焼却・減容化については、運搬費、焼却費、減容化経費などを定額で支援する仕組みも示されています。
② 食肉利用等施設の整備
捕獲したシカやイノシシ等を食肉として利用するための施設整備が対象。地域にジビエ処理施設を整備し、捕獲鳥獣を「廃棄物」ではなく「地域資源」として活用する地域づくりにつなげられます。
捕獲したシカやイノシシ等を食肉として利用するための施設整備が対象。地域にジビエ処理施設を整備し、捕獲鳥獣を「廃棄物」ではなく「地域資源」として活用する地域づくりにつなげられます。
③ 焼却施設・減容化施設
ジビエとして利用できない個体や、利用が適切でない個体の適切な処分のため、焼却施設・減容化施設の整備も重要な支援対象です。捕獲頭数の増加に伴い処理能力が課題となっている地域にとって特に有用です。
ジビエとして利用できない個体や、利用が適切でない個体の適切な処分のため、焼却施設・減容化施設の整備も重要な支援対象です。捕獲頭数の増加に伴い処理能力が課題となっている地域にとって特に有用です。
6.冷凍庫・保冷車・加工設備なども対象になり得る施設本体だけでは処理の仕組みは完成しません。令和8年度資料では、小型保冷・冷凍運搬車、コンテナ等を活用した簡易な施設、冷凍庫、金属探知機、加工製造設備、移動式解体処理車、生体搬入用おり、一時養鹿施設なども支援内容として示されています。移動式解体処理車についてはリース導入も可能とされ、補助率1/2以内、交付金の上限として1,500万円/台の取扱いが示されています。建物の建設だけでなく、捕獲現場から処理施設までの物流・衛生管理・加工・保管まで含めた事業計画を検討することが重要です。
7.ジビエ利用だけでなく「処分」の仕組みも重要捕獲された個体には、食肉利用できるもの、衛生上の理由や損傷等により利用できないもの、その他処分が必要なものがあります。地域の鳥獣対策では、捕獲→選別→ジビエ利用/処分という一連の仕組みを設計する必要があります。令和8年度資料でも、全頭受入れ等を行う上で、選別経費やジビエ利用できない個体の処分等経費が支援内容として示されています。ジビエ施設と焼却・減容化施設を一体的に考えることに大きな意味があります。
8.施設整備では「採択されやすい事業設計」が重要対象経費に該当していても必ず採択されるわけではありません。令和8年度資料では、ジビエ未利用地域における施設、利活用技術者育成研修事業に伴う研修を受講または主催する施設、国産ジビエ認証を取得する施設などを優先的に採択することが示されています。
「焼却炉を導入します」「処理施設を建設します」だけでは不十分です。例えば、地域の捕獲頭数増加→現在の埋設・委託処分の限界→地域内処理施設整備→ジビエ利用可能な個体の資源活用→利用できない個体の焼却・減容化→捕獲から処理までの地域内体制構築→将来的なICTによる個体管理や衛生管理、というように、地域課題解決策として事業を組み立てることが重要です。
9.補助金申請では「施設の必要性」を説明する「なぜこの施設が必要なのか」を、次のようなデータで整理します。
- 鳥獣被害の現状:年間農作物被害額、被害面積、被害作物、被害地域、鳥獣の種類
- 捕獲の現状:年間捕獲頭数、種類別頭数、捕獲方法、捕獲者数
- 処分の現状:埋設・焼却・民間委託・ジビエ利用など
- 現在の課題:処分場所の確保困難、処分費高騰、運搬距離、捕獲者負担、処理施設不足、ジビエ利用率低迷
現状を数字で示すことが重要です。
10.「補助金ありき」の施設計画にしない「補助金が出るから施設を造る」のではなく、「地域課題を解決するために施設が必要で、その財源として交付金を活用する」という考え方が行政事業として重要です。特に処理施設では建設後の維持管理が鍵となります。運営主体、年間処理頭数、人員確保、ランニングコスト(燃料費・電気代・修繕費)、ジビエ販路、焼却・減容化の処理費などをあらかじめ検討しておく必要があります。
11.費用対効果の検討も重要事業によってどのような効果が生まれるのかを説明します。例として、農作物被害の削減、捕獲頭数の増加、捕獲従事者の負担軽減、処分費の削減、運搬距離の短縮、ジビエ利用量の増加、地域内雇用の創出、地域所得の向上などが挙げられます。農林水産省は費用対効果分析に関する資料も公開しています。投資額に対して期待できる行政効果・経済効果を、施設整備検討段階から整理しておくことが重要です。
12.令和8年度はジビエ関連の支援も充実既存の処理加工施設を強化するための支援も用意されています。衛生管理の向上、ジビエ商品の開発、販路開拓、商談会・展示会への参加、国産ジビエ認証等の衛生管理認証取得、捕獲鳥獣の受入れ増加などが対象で、1市町村当たり300万円を上限とする定額支援が示されています。また、国産ジビエ認証等の衛生管理認証取得に係る従来の支援上限が撤廃されたことも重要な変更点です。
13.人材育成・ICT導入にも支援処理加工施設の新規従業員等を対象とするOJT研修について、1施設当たり192万円、1か月当たり16万円を上限とする定額支援が示されています。捕獲情報、処理加工、在庫管理、出荷などの情報を管理するICTシステムについては、1市町村当たり350万円を上限とする定額支援が示されています。施設整備→人材育成→ICTによる管理→ジビエ利用・処分という一連の仕組みを構築可能です。
14.コンソーシアムによる事業も可能市町村単独では解決が難しいケースに対応し、複数の処理加工施設や民間事業者などが連携するコンソーシアムによる取組も支援されています。市町村、都道府県、猟友会、JA、処理加工施設、食品関連事業者、民間企業、観光事業者、地域団体などが連携し、捕獲→処理→加工→販売→地域振興までを一つの仕組みとして構築する方法です。令和8年度には「九州ジビエコンソーシアム」を含む複数のコンソーシアムが交付金交付候補者として公表されています。
15.行政書士法人塩永事務所が考える「自治体への提案」のポイント施設そのものの性能説明だけでなく、行政施策としての必要性を示すことが重要です。
提案構成の例は以下の通りです。
- 地域課題の把握:年間捕獲頭数と現在の処理方法を調査
- 処理能力の算定:1日当たり処理頭数、年間稼働日数、必要な施設能力・人員を算定
- ジビエ利用と処分の分離:利用できる個体はジビエ等として利活用、利用できない個体は焼却・減容化
- 施設整備費の算定:建物、設備、冷凍設備、搬入設備、処理設備等の対象経費を確認
- 補助対象経費の整理:交付要綱・実施要領・公募要領等で対象・対象外を整理
- 費用対効果の整理:被害額削減、処分費削減、ジビエ利用量増加、地域経済効果を整理
- 自治体の事業計画への落とし込み:鳥獣被害防止対策の一部として施設整備を位置付け
16.補助金申請は「施設の見積書」だけでは終わらない数千万円規模以上の事業になることもあり、見積書の提出だけで補助金が得られるものではありません。地域の鳥獣被害状況、捕獲実績、被害防止計画との整合性、施設整備の必要性、事業実施体制、施設の運営方法、事業費、資金計画、費用対効果、将来的な運営・維持管理などを総合的に整理する必要があります。国の公募型事業では、提出された事業実施計画について審査が行われ、妥当と認められたものの中から交付金交付候補者が選定される仕組みです。
17.交付金申請を検討する自治体・企業の皆様へ鳥獣被害対策は「捕獲する」だけでは完結しません。捕獲後の運搬、処理場所、ジビエ利用の可否、利用できない個体の処分、施設の運営主体、継続的な維持可能性まで考える必要があります。有害鳥獣処理施設・ジビエ処理加工施設の整備は、今後の地域鳥獣対策における重要なインフラとなり得ます。一方で、補助制度は年度ごとに公募内容、対象経費、補助率、上限、採択条件等が変更される可能性があります。令和8年度についても、農林水産省は4月7日付で交付等要綱・実施要領等を改正しており、最新の公募要領等を確認したうえで事業計画を作成することが必要です。
18.行政書士法人塩永事務所の補助金申請支援当事務所では、自治体・民間事業者等からのご相談について、補助金・交付金制度の確認から申請書類の作成支援まで、案件の内容に応じてサポートを検討しています。有害鳥獣処理施設については、「施設を造ること」ではなく、「地域の鳥獣被害対策をどのように持続可能な仕組みにするか」という視点から事業計画を検討することが重要です。自治体からの相談、有害鳥獣処理施設の新設、焼却施設・減容化施設の整備、ジビエ処理加工施設の整備、既存施設の改修、冷凍・保冷設備の導入、移動式解体処理車の導入、ICTによる捕獲・処理情報管理、国産ジビエ認証取得、コンソーシアム事業、交付金申請に向けた事業計画の整理などについて、制度の適用可能性を確認しながら支援内容を検討します。
19.まとめ「鳥獣被害防止総合対策交付金」は、単なる鳥獣捕獲の補助制度ではありません。令和8年度の制度では、捕獲→搬入→ジビエ利用・処分→処理加工施設→焼却・減容化→商品開発・販路開拓→人材育成・ICT化という、地域における鳥獣対策の一連の仕組みを支援しています。有害鳥獣の処分に課題を抱える自治体にとって、焼却施設・減容化施設の整備は重要な選択肢です。ジビエとして利用可能な個体については、食肉利用等施設を整備することで、鳥獣被害対策と地域資源の有効活用を両立させることも可能です。
ただし、「対象施設だから補助金が出る」という単純な制度ではありません。地域の被害状況、被害防止計画、捕獲実績、施設の必要性、事業実施体制、費用対効果、施設完成後の運営方法などを総合的に検討し、国の制度趣旨に沿った事業計画を作成することが重要です。有害鳥獣処理施設・ジビエ処理施設の整備を検討されている自治体・企業の皆様は、施設計画を固める前の段階から、交付金の対象となる事業設計になっているかを確認することをおすすめします。※本記事は令和8年度(2026年度)の農林水産省公表資料を基に作成しています。
補助率、対象経費、上限額、採択要件、公募時期等は変更される可能性があります。
実際の申請にあたっては、必ず最新の農林水産省の交付要綱・実施要領・公募要領等をご確認ください。
参考:農林水産省の公式資料
- 農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金について(ジビエ関係)令和8年度版」
- 農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金(令和8年度当初予算)」
- 農林水産省「鳥獣被害防止総合対策交付金の予算・交付等要綱・実施要領等」
- 農林水産省「令和8年度鳥獣被害防止総合対策交付金(鳥獣被害防止総合支援事業のうち広域コンソーシアム型)の公募」
お問い合わせ
096-385-9002
info@shionagaoffice.jp (mailto:info@shionagaoffice.jp)
