事業継続力強化計画策定の詳細ガイド

行政書士法人塩永事務所

はじめに

事業継続力強化計画は、中小企業強靱化法に基づき、中小企業が自然災害等のリスクに備え、事業継続力の強化を図るための計画です。近年、地震、台風、豪雨等の自然災害が頻発し、企業の事業継続に深刻な影響を与えています。本記事では、事業継続力強化計画の概要から策定方法、申請手続き、認定後の支援措置まで詳しく解説いたします。

事業継続力強化計画とは

制度の背景と目的

制度創設の背景

頻発する自然災害による企業活動への甚大な影響
サプライチェーンの寸断による経済活動の停滞
中小企業の災害対応力の不足
事前の備えの重要性の高まり

制度の目的 事業継続力強化計画は、中小企業が以下を実現することを目的としています：

自然災害等のリスクの認識・分析
事前対策の策定・実施
緊急時の対応体制の構築
事業継続・早期復旧体制の整備

対象事業者

中小企業者の定義 業種により以下の要件を満たす企業が対象です：

製造業その他

資本金の額又は出資の総額が3億円以下
常時使用する従業員の数が300人以下

卸売業

資本金の額又は出資の総額が1億円以下
常時使用する従業員の数が100人以下

小売業

資本金の額又は出資の総額が5千万円以下
常時使用する従業員の数が50人以下

サービス業

資本金の額又は出資の総額が5千万円以下
常時使用する従業員の数が100人以下

計画の有効期間

認定を受けた事業継続力強化計画の有効期間は3年から5年です。計画期間中は定期的な見直しと改善が求められます。

事業継続力強化計画策定の詳細プロセス

1. リスクの認識・分析

自然災害リスクの把握

地震リスク

活断層の分布状況
想定される地震の規模・震度
液状化リスクの評価
津波リスクの評価（沿岸部の場合）

気象災害リスク

台風・暴風の被害想定
豪雨・洪水の浸水想定
土砂災害の危険性
雪害の可能性

その他のリスク

火山噴火の影響
感染症の拡大
サイバー攻撃
停電・断水等のインフラ停止

ハザードマップの活用

地震ハザードマップ
洪水ハザードマップ
土砂災害ハザードマップ
津波ハザードマップ
火山ハザードマップ

リスク評価の実施 各リスクについて以下の観点から評価を行います：

発生確率
影響度（人的・物的・経済的）
復旧期間
対策の難易度

2. 事業影響度分析（BIA：Business Impact Analysis）

重要業務の特定

売上・利益への貢献度
顧客への影響度
法的・契約上の義務
他業務への影響度
復旧の難易度

目標復旧時間（RTO：Recovery Time Objective）の設定

重要業務ごとの許容停止時間
段階的復旧のスケジュール
フルオペレーション復旧目標

目標復旧レベル（RLO：Recovery Level Objective）の設定

災害直後の最低限の業務レベル
段階的な業務レベル向上計画
平常時業務レベルへの復旧目標

経営資源の分析

人的資源（キーパーソン、専門技術者）
物的資源（設備、システム、在庫）
情報資源（データ、システム、通信手段）
財務資源（運転資金、保険）
取引先関係（サプライヤー、顧客）

3. 事前対策の策定

人的対策

安全確保対策

従業員の安全確保手順
安否確認システムの構築
避難計画の策定
救急・医療体制の整備

要員確保対策

キーパーソンの代替要員確保
在宅勤務体制の整備
外部人材活用の準備
従業員教育・訓練計画

物的対策

施設・設備の対策

建物の耐震化・補強工事
設備の固定・転倒防止
非常用電源の確保
通信手段の多重化

在庫・資材の対策

重要資材の備蓄
複数拠点での在庫分散
代替調達先の確保
在庫管理システムの強化

情報・システム対策

データの保護・バックアップ

重要データのバックアップ体制
クラウドサービスの活用
オフサイトでのデータ保管
データ暗号化の実施

システムの冗長化

サーバーの冗長化
通信回線の複数化
代替システムの準備
システム復旧手順の策定

資金対策

緊急時資金の確保

当座運転資金の算出
緊急時融資制度の活用準備
保険の見直し・拡充
取引先との支払条件調整

4. 緊急時対応体制の構築

組織体制の整備

災害対策本部の設置

本部長（通常は社長）の指名
各部門の責任者の明確化
意思決定プロセスの定義
指揮命令系統の確立

役割・責任の明確化

安全確保責任者
施設・設備管理責任者
情報システム管理責任者
顧客・取引先対応責任者
広報・情報発信責任者

連絡体制の構築

内部連絡体制

従業員の安否確認方法
緊急連絡網の整備
複数の連絡手段の確保
定期的な連絡訓練の実施

外部連絡体制

顧客・取引先への連絡方法
関係機関（消防、警察等）との連携
業界団体・商工会議所との連携
メディアへの対応準備

5. 訓練・教育計画

従業員への教育

事業継続計画の周知
災害時の行動手順の教育
安全確保の基本知識
システム・設備の緊急時操作方法

定期的な訓練の実施

避難訓練
安否確認訓練
システム復旧訓練
代替業務訓練

計画の見直し・改善

訓練結果の評価・分析
計画の修正・改善
新たなリスクへの対応
法令・制度改正への対応

6. 連携体制の構築

取引先との連携

サプライヤーとの連携

複数調達先の確保
代替品・代替サービスの検討
緊急時連絡体制の構築
相互支援協定の締結

顧客との連携

緊急時の連絡体制
代替サービス提供方法
復旧スケジュールの共有
顧客要求事項の把握

地域・業界との連携

地域連携

商工会議所・商工会との連携
自治体の防災計画との整合
地域企業との相互支援
地域インフラ事業者との連携

業界連携

業界団体での情報共有
同業他社との協力体制
業界統一の対応指針
技術・ノウハウの相互支援

申請書類の作成

主要な申請書類

1. 事業継続力強化計画認定申請書

申請者の基本情報
計画の概要
認定を受けようとする期間

2. 事業継続力強化計画書 以下の内容を含む詳細な計画書を作成します：

現状分析

自然災害等のリスクの認識・分析
事業影響度分析の結果
現在の事業継続体制の評価

事前対策

人的対策の具体的内容
物的対策の具体的内容
情報・システム対策の内容
資金対策の内容

緊急時対応

組織体制・役割分担
連絡体制・情報伝達方法
初動対応の手順
業務継続・復旧の手順

訓練・教育

従業員教育の内容・方法
訓練の実施計画
計画の見直し・改善プロセス

連携体制

取引先との連携内容
地域・業界との連携内容

3. 添付書類

登記事項証明書
財務諸表（直近3期分）
組織図
事業所の配置図
ハザードマップ
既存の災害対策・BCP関連資料

申請書作成のポイント

具体性・実効性の確保

抽象的な記述ではなく具体的な対策内容
実施可能性を考慮した現実的な計画
定量的な目標・指標の設定
実施スケジュールの明確化

自社の特性への適合

業種・事業内容に応じた対策
企業規模に見合った体制・手法
地理的条件を考慮したリスク対策
経営資源に応じた対策の選択

継続的改善の仕組み

PDCAサイクルの組み込み
定期的な見直し・更新の仕組み
訓練結果の反映プロセス
新たなリスクへの対応体制

申請手続きの流れ

1. 申請先の確認

経済産業局への申請 本店所在地を管轄する経済産業局に申請します：

北海道経済産業局
東北経済産業局
関東経済産業局
中部経済産業局
近畿経済産業局
中国経済産業局
四国経済産業局
九州経済産業局
沖縄総合事務局

2. 事前相談

申請前に経済産業局との事前相談を行うことを強く推奨します：

計画内容の適合性確認
申請書類の記載方法の確認
審査基準の理解
必要な修正点の把握

3. 申請書の提出

提出方法

窓口持参
郵送（書留等確実な方法）
電子申請（e-Gov等、対応している場合）

提出部数

正本1部、副本1部

4. 審査プロセス

形式審査

申請書類の記載漏れ・不備のチェック
添付書類の確認
申請者の要件確認

実質審査

リスク認識・分析の妥当性
事前対策の実効性
緊急時対応体制の適切性
訓練・教育計画の妥当性
連携体制の実効性

審査期間

標準処理期間：45日以内
内容により延長される場合あり

5. 認定・不認定の通知

認定の場合

認定書の交付
認定番号の付与
有効期間の明示

不認定の場合

不認定理由の通知
再申請のための指導・助言

認定後の支援措置

税制上の特例措置

事業継続力強化設備に係る特例措置

対象設備：自家発電設備、給水設備、排水設備等
特例内容：取得価額の20%の特別償却
適用期間：令和7年3月31日まで

少額減価償却資産の特例

対象：30万円未満の減価償却資産
特例内容：年間300万円まで即時償却可能
事業継続力強化計画の認定により適用要件が緩和

金融支援

政府系金融機関による低利融資

日本政策金融公庫

新企業育成貸付（企業活力強化貸付）
基準金利から-0.9%の金利優遇
設備資金・運転資金ともに対象

商工組合中央金庫

防災・BCP対応設備資金
低利での融資提供

信用保証制度の特例

セーフティネット保証の対象
危機関連保証の対象
保証料率の軽減措置

補助金・助成金での優遇

ものづくり補助金

審査時の加点措置
事業継続力強化に資する設備投資への優遇

小規模事業者持続化補助金

災害支援枠での採択優遇
補助上限額の拡大

IT導入補助金

事業継続力強化に資するIT導入への加点
クラウドサービス導入への優遇

その他の支援

専門家派遣制度

事業継続計画策定の専門家派遣
無料又は低額での専門指導
継続的なフォローアップ支援

情報提供・啓発支援

事業継続に関する最新情報の提供
セミナー・講習会の優先案内
他社事例・ベストプラクティスの共有

連携支援

同業他社との連携促進
サプライチェーン全体での事業継続力強化支援
地域での共同BCP策定支援

認定後の管理・更新

実施状況の報告

年次報告 認定事業者は毎年、計画の実施状況について報告する必要があります：

事前対策の実施状況
訓練・教育の実施実績
計画の見直し・改善状況
災害発生時の対応実績（該当する場合）

中間報告 重要な変更がある場合は随時報告が必要です：

組織体制の大幅な変更
事業内容の重要な変更
主要な設備・システムの変更

計画の変更

軽微な変更 以下の変更は届出により対応可能です：

連絡先の変更
軽微な組織変更
実施スケジュールの調整

重要な変更 以下の変更は変更認定申請が必要です：

事業内容の重要な変更
対策内容の大幅な変更
実施体制の根本的な変更

計画の更新

有効期間の延長 計画期間満了前に更新申請を行うことで、継続して認定を受けることができます：

更新申請時期：期間満了の3ヶ月前から
更新時の見直し：最新のリスク環境に対応した計画への更新
継続的改善：過去の実績を踏まえた計画の改善

業種別の特徴と留意点

製造業

特有のリスク

生産設備の損傷・停止
サプライチェーンの寸断
品質管理体制の維持
危険物・有害物質の管理

重要な対策

生産設備の耐震化・予備機確保
複数調達先の確保
品質管理システムの冗長化
環境・安全管理の継続

小売業

特有のリスク

店舗施設の損傷
商品供給の停止
顧客の安全確保
POS・決済システムの停止

重要な対策

店舗の安全対策
在庫分散・緊急調達体制
顧客避難誘導体制
決済手段の多様化

サービス業

特有のリスク

事務所・施設の使用不能
情報システムの停止
顧客データの保護
サービス品質の維持

重要な対策

代替拠点の確保
クラウド化・リモートワーク対応
データバックアップ・セキュリティ
サービスレベルの段階的復旧

建設業

特有のリスク

現場作業の中断
重機・資材の被害
作業員の安全確保
工期への影響

重要な対策

現場安全管理の強化
重機・資材の分散配置
作業員の安全確保・連絡体制
発注者との調整体制

よくある課題と対策

課題1：リスク認識の不足

問題点

ハザードマップの確認不足
過去の災害事例の軽視
間接的な影響の見落とし

対策

複数のハザードマップの重複確認
過去の災害事例の詳細調査
サプライチェーン全体でのリスク評価

課題2：対策の実効性不足

問題点

形式的な計画作成
予算・人員不足による対策の不備
従業員の理解・協力不足

対策

段階的な対策実施
経営トップのコミットメント
継続的な教育・訓練の実施

課題3：計画の形骸化

問題点

策定後の見直し不足
訓練の形式化
環境変化への対応遅れ

対策

定期的な計画見直しスケジュール化
実践的な訓練の実施
継続的な改善体制の構築

成功事例に学ぶポイント

成功事例1：製造業A社

取組内容

生産設備の分散配置
サプライヤーの複数化
従業員の多能工化

成功要因

経営陣のリーダーシップ
段階的な投資による着実な対策実施
従業員の積極的な参加

成功事例2：小売業B社

取組内容

店舗の耐震補強
在庫管理システムの強化
地域との連携強化

成功要因

地域密着型の事業特性を活かした計画
顧客・地域への貢献意識
実効性重視の対策選択

成功事例3：サービス業C社

取組内容

クラウド化の推進
リモートワーク体制の整備
顧客との連絡体制強化

成功要因

IT技術の積極的活用
働き方の柔軟性確保
顧客との信頼関係構築

まとめ

事業継続力強化計画は、中小企業が自然災害等のリスクに備え、事業の継続・早期復旧を実現するための重要な制度です。適切な計画策定と着実な実行により、企業の競争力強化と持続的成長を支援します。

計画策定には専門的な知識と継続的な取組みが必要ですが、認定後は税制優遇、金融支援、補助金での優遇等、様々な支援措置を活用することができます。

重要なのは、計画策定を目的とするのではなく、実際の災害時に機能する実効性のある体制を構築することです。そのためには、継続的な訓練・教育、定期的な見直し・改善、そして組織全体での取組みが不可欠です。

行政書士法人塩永事務所では、事業継続力強化計画の策定から申請手続き、認定後のフォローアップまで、企業の皆様の事業継続力強化を総合的にサポートいたします。豊富な実績と専門知識をもとに、貴社の持続的発展を全力で支援いたします。

お問い合わせ 事業継続力強化計画に関するご相談は、行政書士法人塩永事務所までお気軽にお問い合わせください。初回相談では、貴社の事業特性とリスク環境を踏まえた計画策定の方向性について、無料でアドバイスいたします。災害に強い企業づくりを、私たちと一緒に進めていきましょう。