
日本版DBS、「たぶんこうだろう」で準備していませんか?
熊本の行政書士が解説する、こども性暴力防止法の誤解と実務対応
「日本版DBSが始まるらしい」
「子どもの安全のために、職員の性犯罪歴を確認する制度でしょう?」
ここまでは、多くの教育・保育事業者の方がご存じかもしれません。
しかし、実際に準備を始めると、
- うちは義務対象なのか、認定対象なのか
- 罰金刑は確認対象なのか
- 現職職員はいつまでに確認すればよいのか
- 研修はいつまでに終わらせればよいのか
- 情報管理規程は必要なのか
- 毎年、こども家庭庁に何を報告するのか
- 私立だから任意認定なのではないか
といった疑問が次々に出てきます。
そして、この制度で怖いのは、単に「知らなかった」だけでは済まない場面があることです。
事業者区分を間違えれば、そもそも必要な手続を取り違える可能性があります。
確認の期限を誤れば、法定期限への対応が遅れる可能性があります。
さらに、犯罪事実確認に関する情報は極めて慎重な取扱いが必要です。誰が見るのか、どこに保存するのか、どのような権限を与えるのか――こうした内部管理まで含めて準備しなければなりません。
そこで今回は、熊本の行政書士法人塩永事務所として、制度の「表面的な説明」ではなく、教育・保育事業者が実際に準備するときに間違えやすいポイントに絞って解説します。
まず押さえたい「日本版DBS」のこと
正式には、2024年に成立・公布された、
「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」
です。
一般に「こども性暴力防止法」「日本版DBS」と呼ばれています。
施行日は2026年12月25日です。
この制度では、対象となる学校・保育施設等について、子どもと接する業務に従事する者の特定性犯罪に関する「犯罪事実確認」を行う仕組みが設けられます。
重要なのは、
「日本版DBS=前科を全部調べる制度」
ではないということです。
確認対象となるのは、法律上定められた**「特定性犯罪」**について、法律が定める期間内に該当する犯罪事実があるかどうかです。
ここを曖昧にしたまま、「前科がある人は全部対象」「刑務所に入った人だけが対象」と説明してしまうと、制度の理解を大きく誤ることになります。
「罰金ならDBSの確認対象にはならない」は間違い
「実刑か執行猶予か」だけで判断してはいけません
日本版DBSについて、特に注意したいのが「罰金刑」です。
「犯罪事実確認というくらいだから、刑務所に入った人や執行猶予の人が対象なのだろう」
この理解は正確ではありません。
こども家庭庁の用語整理では、特定性犯罪事実該当者について、
- 特定性犯罪について拘禁刑の執行終了等から20年を経過しない者
- 特定性犯罪について拘禁刑の執行猶予者で、裁判確定日から10年を経過しない者
- 特定性犯罪について罰金刑の執行終了等から10年を経過しない者
が示されています。
つまり、
「罰金だから日本版DBSとは無関係」ではありません。
ここは事業者側が採用・人事管理を行ううえで非常に重要なポイントです。
では、事業者は職員の「前科」を自由に調べてよいのか?
ここも誤解してはいけません。
日本版DBSでは、事業者が独自に警察へ問い合わせたり、職員に「あなたは過去に犯罪を犯しましたか?」と自由に聞き回ったりする制度ではありません。
原則として、法に基づく手続により、こども家庭庁から犯罪事実確認書の交付を受ける仕組みです。
また、特定性犯罪事実該当者である旨の犯罪事実確認書が交付される場合には、本人への事前通知や訂正請求のための期間が設けられています。
だからこそ、事業者には、
「誰が、どの情報を、どの目的で、どこまで取り扱うのか」
という情報管理が求められます。
これは単なる人事担当者の仕事ではありません。
法人として、
- 情報管理責任者
- システム利用権限
- 閲覧できる職員
- 記録の保存方法
- 廃棄・消去
- 漏えい時の対応
まで設計しておく必要があります。
「私立だから任意認定」は大きな間違い
日本版DBSは「公立か私立か」で線引きされていません
現場から非常に出やすい質問が、
「私立幼稚園は任意の認定制度ですよね?」
というものです。
これは注意が必要です。
こども性暴力防止法では、学校教育法上の学校等に該当する場合、私立であっても義務対象となり得ます。
こども家庭庁のQ&Aでも、
私立の学校法人が運営している学校等は義務対象
と明確に整理されています。
つまり、
「民間=認定対象」ではありません。
ここは日本版DBSを理解するうえで非常に重要です。
熊本県内でも「うちは私立だから大丈夫」は危険
例えば、
- 私立幼稚園
- 私立小学校
- 私立中学校
- 私立高等学校
- 私立の中高一貫校
- その他、法律上の学校に該当する事業
などについては、「私立だから認定を申請する側」と決めつけることはできません。
実際には、どの法律に基づく施設・事業なのか、誰が設置者なのか、どの業務が対象となるのかを確認する必要があります。
一方、学習塾、スポーツクラブ、一定のフリースクール、認可外保育施設、放課後児童クラブなどは、法律上の「民間教育保育等事業者」として認定対象となる場合があります。
したがって、最初に行うべきなのは、
「公立か私立か」
ではなく、
「自分たちの事業は、法第2条上のどの区分に入るのか」
という確認です。
「現職者は3年あるから、まだ何もしなくていい」
これも非常に危険な考え方です。
たしかに、義務対象事業者の施行時現職者については、犯罪事実確認を2026年12月25日の施行日から3年以内に完了する仕組みになっています。期限は2029年12月24日です。
しかし、
「3年間ある=2029年になってから準備すればよい」
ではありません。
むしろ国は、約280万人と見込まれる施行時現職者の確認を一気に行うのではなく、申請時期を分散する仕組みを示しています。
実務上の重要ポイントは「27か月」です
こども家庭庁が2026年7月に示した通知によると、
2026年12月25日~2027年3月
は、原則として新規採用者への対応を優先します。
施行時現職者については、原則として、
2027年4月~2029年6月の27か月間
に分散して犯罪事実確認書の交付申請を行います。
さらに、
2029年7月~2029年12月24日
が、申請の遅れやシステム障害などに備える猶予・バッファ期間として位置付けられています。
したがって、
「3年間ある」
ではなく、
「3年間の中で、国が指定するスケジュールに沿って計画的に処理する」
という理解が適切です。
さらに注意したい「認定事業者」
学習塾や認可外保育施設などの認定対象事業者については、義務対象事業者とは期限の考え方が違います。
認定事業者の認定時現職者については、原則として、
認定の日から1年以内
に犯罪事実確認を行う必要があります。こども家庭庁の資料でも、義務対象事業者は施行日から3年以内、認定対象事業者は認定から1年以内と整理されています。
つまり、
「日本版DBSは全事業者が3年以内」
という説明は不正確です。
義務対象なのか、認定対象なのか。
ここを最初に判定することが、実務の出発点になります。
「とりあえず規程を1本作ればOK」
日本版DBS対応でありがちなもう一つの問題が、
「何か情報漏えい防止規程を作っておけばいいですよね?」
という発想です。
これも少し危険です。
こども家庭庁は、正式に「情報管理規程」のひな型を公表しています。
しかも、1種類ではありません。
事業者の情報管理方法に応じて、
- 責任者1名で管理し、記録保存を行わないパターン
- 複数名で確認するが記録保存を行わないパターン
- 犯罪事実確認記録等を保存・管理するパターン
などのひな型が用意されています。
つまり、
「名前だけ情報管理規程にした文書を作ればいい」わけではありません。
自法人の実際の運用と規程の内容を一致させることが重要です。
そして、ここが極めて重要です
義務対象事業者のうち、国・地方公共団体等を除く犯罪事実確認実施者等については、初めて犯罪事実確認書の交付申請を行う前に、情報管理規程をこども家庭庁へ提出する必要があります。
こども家庭庁のガイドラインでは、情報管理規程が提出されないまま交付申請が行われた場合、規程が提出されるまで犯罪事実確認書が交付されないことが明示されています。
さらに、規程の内容が法令等に違反している場合には、是正命令の対象となり、必要な措置が講じられたと認められるまで犯罪事実確認書の交付が行われない仕組みです。
これは非常に重い意味を持ちます。
日本版DBSでは、
「犯罪事実確認を申請する」
ことだけを考えてはいけません。
その前段階として、
「犯罪事実確認を適切に取り扱える法人内部の仕組みが完成しているか」
を確認する必要があります。
「規程を作る」より「運用できる状態にする」
行政書士として実務上特にお伝えしたいのはここです。
規程は、作っただけでは意味がありません。
例えば、
「犯罪事実確認に関する情報は適切に管理する」
と書いてあるだけでは、現場の担当者は、
- 誰が閲覧できるのか
- 園長は見られるのか
- 理事長は見られるのか
- 人事担当者は見られるのか
- コピーしてよいのか
- パソコンに保存してよいのか
- 紙で保管してよいのか
- メールで送ってよいのか
- 退職者の情報をどうするのか
が分かりません。
だからこそ、
規程 → 権限設定 → 実際の業務フロー
を一体として考える必要があります。
「研修は全員12月25日までに終わらせればよい」
研修についても、事業者区分による違いがあります。
こども家庭庁の事業者向け研修資料では、
義務対象事業者の現職者は、原則として2026年12月25日の法施行前に研修を受講
することが求められています。
一方、
認定事業者については、認定申請時までに現職者に研修を受講させる
という整理になっています。
したがって、
「すべての事業者が2026年12月25日までに全職員の研修を完了しなければならない」
と一律に説明するのは適切ではありません。
ただし、「法律上の期限」だけを見てはいけません
認定事業者だから12月25日まで何もしなくていい、という意味でもありません。
むしろ研修は、制度開始後に一度だけ実施して終わるものではなく、こども家庭庁も定期的な受講や日常業務への組込みを検討するよう案内しています。
例えば、
- 職員会議で具体的事例を検討する
- 「不適切な行為」に該当するケースを共有する
- 死角になりやすい場所を確認する
- 子どもと職員が一対一になる場面を見直す
- 新任職員への研修を採用時に組み込む
といった取り組みです。
大切なのは、
「研修をやった」という実績作りではなく、「現場で行動が変わる研修」にすること
です。
「毎年、こども家庭庁へ研修実績を提出する」
最後は、報告義務についてです。
「日本版DBSに対応するため、毎年、研修記録を国へ提出する必要があります」
という説明を見かけることがあります。
しかし、ここも事業者区分を分けて考える必要があります。
こども性暴力防止法では、義務対象事業者と認定事業者で、定期報告等の仕組みが異なります。
義務対象事業者については、犯罪事実確認の実施状況や犯罪事実確認記録等の管理状況について定期報告等の仕組みがありますが、国・地方公共団体等には法律上の一部の義務について例外があります。
一方、認定事業者等については、犯罪事実確認・安全確保措置・記録管理等の実施状況について定期報告の仕組みが設けられています。
したがって、
「全事業者が毎年、こども家庭庁へ研修実績を同じ方法で提出する」
という理解ではなく、
事業者区分・所轄庁・報告事項を分けて管理する
ことが必要です。
では、熊本の学校・保育施設は何から始めればいいのか?
ここまで読んで、
「結局、うちは何を準備すればいいの?」
と思われた方も多いでしょう。
日本版DBS対応で最初にやるべきことは、いきなり職員全員の犯罪事実確認を始めることではありません。
まずは、
STEP1 自法人の「事業者区分」を確定する
最初に、
義務対象事業者なのか、認定対象事業者なのか
を確認します。
「私立だから認定」
「民間だから認定」
「認可外だから義務」
などと、名称だけで判断しないことが重要です。
STEP2 対象となる「従事者」を洗い出す
次に、
- 正職員
- パート職員
- 非常勤職員
- 派遣労働者
- 委託先関係者
- 請負事業者の労働者
- 新規採用予定者
などについて、法律上の「従事者」に該当するかを整理します。
こども家庭庁の2026年7月通知では、一定の場合、派遣労働者や請負事業主・委託先事業者に雇用される労働者も施行時現職者に含まれ得ると整理されています。
「うちは直接雇用ではないから関係ない」と簡単に判断するのは危険です。
STEP3 情報管理体制を先に作る
犯罪事実確認に関する情報を扱う担当者を決めます。
例えば、
理事長 → 人事責任者 → 園長
の全員が自由に見られる仕組みにするのか、
あるいは、
指定した責任者1名だけが確認する
仕組みにするのか。
法人の規模や人員配置を踏まえて設計します。
こども家庭庁も、複数の情報管理規程ひな型を示しています。
STEP4 就業規則・採用関係書類も確認する
日本版DBSは、単独の「犯罪事実確認手続」だけで完結しません。
採用時の説明、
- 求人票
- 募集要項
- 内定通知
- 誓約書
- 就業規則
- 職員への意向確認
- 配置・業務変更
など、人事労務の仕組みとの連動が重要になります。
こども家庭庁も、就業規則や募集要項、誓約書等について参考例を公表しています。
特に、犯罪事実確認の結果を理由としてどのような防止措置を講じるのかについては、労働法制との関係もあります。
単純に、
「犯歴があるから即解雇」
という発想で処理できる問題ではありません。
必要に応じて社会保険労務士・弁護士等とも連携しながら進めることが重要です。
STEP5 「確認した後」の対応まで決めておく
日本版DBSの本当の難しさは、
犯罪事実確認書を取得することではなく、その後の対応
にあります。
確認の結果、
「特定性犯罪事実該当者に該当する」
ことが分かった場合、事業者には、児童対象性暴力等を防止するための措置が問題となります。
また、犯罪事実確認の結果だけでなく、現場で「性暴力のおそれ」が疑われる場合の対応についても、報告・調査・安全確保などの仕組みを事前に整えておく必要があります。
だからこそ、
確認 → 判断 → 配置 → 報告 → 調査 → 防止措置
という一連の流れを、あらかじめ法人内で整理しておくことが重要です。
日本版DBS対応は「書類1枚」では終わりません
ここまでの内容を整理すると、日本版DBSへの対応は、
① 法律上の対象区分を確認する
↓
② 対象となる従事者を整理する
↓
③ 研修計画を立てる
↓
④ 情報管理規程を整備する
↓
⑤ システム・権限管理を準備する
↓
⑥ 就業規則・採用書類等を確認する
↓
⑦ 犯罪事実確認の申請スケジュールを組む
↓
⑧ 結果を受けた場合の対応フローを整備する
という、法人全体のコンプライアンス整備です。
「ネットの記事を読んだから大丈夫」ではありません
日本版DBSについては、制度開始前ということもあり、インターネット上にさまざまな解説が出ています。
しかし、
「罰金刑は対象外」
「私立なら任意」
「全員3年以内だから今は何もしなくていい」
「全事業者が12月25日までに研修を終えればいい」
「情報管理規程なら何でもいい」
「毎年必ず国へ研修報告をする」
といった一見分かりやすい説明には、事業者区分や法令上の条件が抜け落ちている場合があります。
日本版DBSは、単純な「犯罪歴チェック制度」ではありません。
子どもを守るための安全確保措置、犯罪事実確認、研修、情報管理、人事労務、事案発生時の対応を一体として整備する制度です。
熊本の学校・幼稚園・保育施設・教育事業者の皆さまへ
2026年12月25日の施行まで、準備できる時間は限られています。
特に、
- 私立学校
- 私立幼稚園
- 認定こども園
- 保育所
- 児童福祉施設
- 放課後児童クラブ
- 学習塾
- スポーツクラブ
- フリースクール
- 認可外保育施設
などは、まず自分たちの事業が義務対象なのか、認定対象なのかを正確に確認するところから始めることをおすすめします。
こども家庭庁は、事業者向けの準備ガイド、チェックリスト、情報管理規程のひな型、研修教材、Q&Aなどを順次公開しています。
制度については今後も細かな運用情報が更新される可能性があります。
そのため、古い記事やSNSの投稿だけを基準にするのではなく、最新の法令・ガイドライン・こども家庭庁の通知を確認し、自法人の事業形態に当てはめることが大切です。
まとめ――「日本版DBSの準備」は、早い法人ほど有利です
今回ご紹介したポイントを最後に整理します。
POINT
罰金刑も、特定性犯罪について法律上の期間内であれば確認対象となります。
POINT
私立だから認定対象、というわけではありません。私立学校等は義務対象となる場合があります。
POINT
義務対象事業者の施行時現職者は3年以内が期限ですが、実務上は2027年4月から2029年6月までの27か月に分散して申請するスケジュールが示されています。
POINT
認定対象事業者の認定時現職者は、原則として認定の日から1年以内の確認が必要です。
POINT
情報管理規程は単なる社内文書ではありません。義務対象事業者については、初回の犯罪事実確認書の交付申請前に提出が必要となる重要な書類です。
POINT
研修の期限・報告義務は、義務対象事業者と認定事業者を分けて考える必要があります。
そして、最も大切なのは、
「日本版DBSが始まるから、とりあえず犯罪歴を確認する」ではなく、「制度に対応できる法人内部の仕組みを作る」ことです。
ということです。
熊本県内の学校・幼稚園・保育施設・教育事業者の皆さまにとって、2026年12月25日は単なる制度開始日ではありません。
採用、人事、研修、情報管理、就業規則、職員対応、事故・不祥事対応など、法人の管理体制そのものを見直すタイミングでもあります。
「うちは義務対象?認定対象?」
「どの職員が確認対象?」
「情報管理規程はどう作ればいい?」
「就業規則は変更した方がいい?」
「施行日までに何を終わらせればいい?」
このような疑問がある場合には、まず自法人の現状を整理し、必要な手続を一つずつ洗い出すことをおすすめします。
行政書士法人塩永事務所では、熊本の事業者の皆さまが制度を正しく理解し、必要な行政手続・社内規程整備等を計画的に進められるよう、関連する専門家とも連携しながらサポートしています。
なお、犯罪事実確認の結果を踏まえた解雇・配置転換など、具体的な労働問題については、労働法務を専門とする弁護士・社会保険労務士等への相談が必要となる場合があります。
制度の対象かどうかを判断するところから、早めの準備をおすすめします。
「12月25日になってから考える」のではなく、「12月25日までに何を完成させるか」。
これが、日本版DBS対応で最も重要な視点です。
