
韓国にルーツを持つ方の国籍問題 ― 出生・帰化・国籍選択をめぐる実務ポイント
行政書士法人塩永事務所(熊本を拠点に全国対応/出入国在留管理庁 登録支援機関)
在日韓国人の方やそのご家族から、「自分は日本国籍なのか韓国籍なのか分からない」「親が帰化したが自分の国籍はどうなっているのか」「もう25歳を過ぎているが国籍選択の届出をしていない」といったご相談を多くいただきます。
こうした問題は、①日本の国籍法、②韓国の国籍法、③韓国の家族関係登録制度、この3つが複雑に絡み合って発生します。
しかも改正時期によって適用されるルールが異なるうえ、韓国側の身分登録制度自体も2008年に大きく変わっているため、ご本人の生年月日や親御さんの国籍変動の時期を一つひとつ確認しないと、正確な結論が出せません。
当事務所は熊本を拠点としていますが、日韓の国籍・家族関係登録に関するご相談は全国から承っており、郵送・オンラインでの資料確認にも対応しています。
また、出入国在留管理庁の登録支援機関としての届出も行っており、国籍・戸籍の整理から特定技能外国人の受入れ支援まで、在留・身分関係にまつわる手続を一貫してサポートできる体制を整えています。
本稿では、実務でよくご相談いただく4つの論点――
①親子・婚姻関係の韓国側登録、②本人の出生時国籍の確認、③親の帰化による国籍変動、④20歳を超えてからの国籍選択問題――について、制度の概要と確認の進め方を整理します。
1. 親子・婚姻関係の韓国側登録(家族関係登録制度)
日本で出生届や婚姻届を役所に提出しても、それだけでは韓国側の身分関係には反映されません。日本と韓国は別々の身分登録制度を持っているため、韓国籍を有する方に関する出生・婚姻・離婚・死亡などの身分事項は、日本の届出とは別に韓国側(在日本の韓国大使館・総領事館、または韓国本国の家族関係登録官署)に届け出る必要があります。
「韓国戸籍」はもう存在しない
注意していただきたいのは、韓国では2008年1月1日に従来の戸籍制度が廃止され、「家族関係登録制度」に移行している点です。そのため、現在必要になる資料は、目的に応じて次のように使い分けます。
- 家族関係証明書:本人を基準に、親・配偶者・子などの関係を確認する証明書。親子関係や相続手続で使用。
- 基本証明書:出生・死亡・改名など、本人の基本的な身分事項を確認する証明書。国籍関係や出生関係の確認で重要。
- 婚姻関係証明書:婚姻・離婚等の事項を確認する証明書。
- 入養関係証明書/親養子入養関係証明書:養子縁組に関する事項を確認する証明書(請求できる人の範囲が特に限定されています)。
- 除籍謄本:2008年の制度移行前の、旧戸籍にあたる記録を確認するための資料。祖父母の代の身分関係や、2008年以前に帰化した方の帰化前の身分関係を調べる際に必要になります。
出生届・婚姻届の届出漏れ
- 出生届:父または母が韓国籍の場合、日本での出生届に加えて、韓国大使館・総領事館を通じた出生申告(출생신고)が必要です。この申告をして初めて、子が韓国の家族関係登録簿に登載されます。
- 婚姻届:日本の役所で婚姻届を受理してもらっても、韓国籍の当事者については韓国側への婚姻申告(혼인신고)を別途行わないと、韓国側の記録上は独身のままになっているケースが少なくありません。
こうした届出漏れがあると、後になって相続・帰化申請・パスポート更新などの場面で「韓国側の家族関係証明書と日本の戸籍の記載が食い違う」という問題が表面化することがあります。
登録基準地の確認が出発点
韓国側の証明書を請求する際には、対象者の登録基準地(등록기준지)を正確に把握している必要があります。日本の本籍地に似た制度ですが同一のものではなく、番地まで正確に特定できないと証明書が発給されないことがあります。登録基準地が分からない場合は、過去の家族関係証明書・除籍謄本・韓国人親族の資料・日本の戸籍に記載された韓国側情報などを手掛かりに調査します。
第三者による代理取得についての最新の注意点
近年、韓国大使館は、家族関係登録簿等の証明書の交付について、第三者が「業として」委任を受けて申請すること自体に対する注意喚起を強めています。委任状があれば専門家が当然に代理取得できるというものではなく、申請方法や受任できる範囲は公館の運用によって変わり得るため、実際に手続を進める前に最新の取扱いを確認することが不可欠です。当事務所でも、証明書そのものの取得代行と、必要書類の調査・翻訳・申請書作成の支援・手続全体の整理は分けて考え、案件ごとに適切な進め方をご案内しています。
日本へ帰化した方の韓国側証明書
韓国籍から日本国籍へ帰化した方については、帰化後に韓国側の現在の基本証明書等が取得できない(発給されない)ことがあります。これは「韓国側の身分関係が一切証明できない」という意味ではなく、帰化前の記録が2008年以前の除籍謄本に残っている場合には、そちらを確認することで父母・出生・婚姻・本籍等の身分関係をさかのぼって調査できる可能性があります。日本の戸籍に帰化の事実が記載されているかどうかも、あわせて確認すべきポイントです。
親子関係・婚姻関係が韓国側に正しく登録されているかどうか、また韓国側のどの証明書が必要かは、後述する②③④の国籍確認作業の前提となるため、まず最初に整理すべき事項です。
2. 本人の出生時国籍の確認
出生時にどちらの国籍を取得したか(あるいは両方取得したか)は、出生日と当時の父母の国籍によって機械的に決まります。日本・韓国とも、かつては「父の国籍を子が承継する」父系優先血統主義を採っていましたが、その後父母両系血統主義に改正されており、改正時期が両国で異なる点が実務上のポイントです。
| 出生時期 | 父が韓国籍・母が日本籍 | 父が日本籍・母が韓国籍 |
|---|---|---|
| 1985年1月1日より前 | 韓国籍のみ | 日本国籍のみ |
| 1985年1月1日~1998年6月13日 | 二重国籍(日本が両系主義に移行済) | 日本国籍のみ(韓国はまだ父系主義) |
| 1998年6月14日以降 | 二重国籍 | 二重国籍(韓国も両系主義に移行) |
※日本は1985年1月1日、韓国は1998年6月14日にそれぞれ父母両系血統主義に改正されています。
改正前に生まれたために片方の国籍しか取得できなかった方についても、一定の期間内に届出をすることで後から母(または父)側の国籍を取得できる経過措置が設けられていた時期があります。したがって、「昔の話だから今さら確認しても仕方がない」ということはなく、出生時点に遡って一つひとつ確認する価値があります。
確認の際は、
- ご本人の戸籍謄本(または改製原戸籍)
- 出生当時の父母の国籍を示す書類(日本の戸籍、韓国の家族関係証明書・除籍謄本など)
- 出生届の写し(保管されていれば「日本国籍留保」欄の記載の有無も重要)
を突き合わせて、出生時点での国籍を確定させる作業から始めます。
3. 父の帰化による国籍変動の確認
「父が帰化して日本人になったのだから、自分も自動的に日本国籍になっているはずだ」と思われがちですが、これは誤解であることが多い点に注意が必要です。
帰化した本人(父)自身の国籍について
韓国籍の方が日本に帰化した場合、法務大臣の帰化許可が官報に告示された日の午前0時をもって日本国籍を取得すると同時に、韓国国籍を喪失します。これは日本の国籍法上、自動的かつ同時に生じるものです。
ただし、韓国側にはこの事実が自動的には伝わりません。韓国の国籍法上、帰化により韓国籍を失った者は、在日本の韓国大使館・総領事館を通じて国籍喪失申告(国籍喪失届)を行う義務があります。この届出を放置していると、韓国側の家族関係登録簿には帰化後もその方の記載が残ったままになり、後年、相続手続きや親族の帰化申請、あるいは韓国側の証明書取得の際に支障が出ることがあります。帰化されたご家庭では、この韓国側の喪失届出が済んでいるかどうかをまず確認する必要があります。
未成年の子の国籍について
ここが最も誤解の多いポイントです。父の帰化によって、その子(未成年者を含む)の国籍が自動的に変わるわけではありません。
- 子が父の帰化申請に同時に含まれて申請され、許可を受けていた場合は、子も同じタイミングで日本国籍を取得します(未成年の子は親の戸籍に入る形で帰化するのが一般的な取扱いです)。
- 子が父の帰化申請に含まれていなかった場合は、子は帰化時点では韓国籍(または出生時から日本国籍と韓国籍の二重国籍)のままです。父だけが先に帰化し、子は別途改めて帰化許可を得るか、あるいは元々二重国籍であった場合はそのまま二重国籍者として扱われることになります。
したがって、「父が帰化した」という事実だけでは、ご本人の現在の国籍を確定させることはできません。当時の帰化許可申請書に本人が含まれていたか、当時のご本人の年齢・出生時国籍がどうであったかを、帰化した際の戸籍の記載や法務局への確認、さらに必要であれば韓国側の除籍謄本を通じて調べる必要があります。
4. 23歳を超えてからの国籍選択問題
出生時から日本と韓国の二重国籍であった方は、国籍法第14条により、いずれかの国籍を選択する義務を負います。この選択をすべき期限は、成年年齢の引下げに伴う法改正で変更されており、生まれた時期によって適用ルールが異なります。
- 2022年3月31日までの旧ルール:20歳に達する以前に重国籍となった場合は22歳に達するまで、20歳に達した後に重国籍となった場合はその時から2年以内。
- 2022年4月1日以降の現行ルール:18歳に達する以前に重国籍となった場合は20歳に達するまで、18歳に達した後に重国籍となった場合はその時から2年以内。
- 経過措置:2022年4月1日時点で既に20歳以上だった方は旧ルール(22歳まで)が適用され、18歳以上20歳未満だった方は同日から2年以内に選択すればよいとされました。
現在22歳を超えている方の多くは旧ルールの対象であり、選択期限(22歳)を既に過ぎているケースに該当します。ここで重要なのは、以下の2点です。
- 期限を過ぎても選択義務自体は消えません。 国籍法上、期限内に選択しなかった場合であっても、いずれかの国籍を選択する必要があるとされています。
- 期限徒過だけで自動的に日本国籍を失うわけではありません。 期限内に選択しないと、法務大臣が国籍の選択をすべきことを催告できる制度があり、催告を受けた日から1か月以内に日本国籍を選択しなければ、原則としてその期間経過時に日本国籍を喪失するとされています(国籍法15条)。もっとも、この催告が実際に行われた事例はこれまで確認されていないと法務省も説明しており、事実上、催告を受けないまま重国籍状態が続いている方は少なくありません。
とはいえ、催告の運用は将来的に変わり得るものですし、パスポートの更新、就職(特に公務員や一部の国家資格)、相続、婚姻届などの場面で「戸籍上は日本国籍だが韓国側の国籍も未整理」という状態が支障になることがあります。以下のいずれかの方法で、早めに国籍選択の手続きを済ませておくことをお勧めします。
- 日本国籍を選択する場合:市区町村役場に「国籍選択届」を提出(宣言方式)し、あわせて韓国側に「国籍離脱」または「国籍選択」の申告を行う。
- 韓国籍を選択する場合:日本国籍の離脱手続きを行う。
なお、選択の届出は日本側・韓国側の双方に行う必要があり、どちらか一方だけでは手続きが完結しない点にご注意ください。
まとめ ― まずは事実関係の整理から
以上のとおり、韓国にルーツを持つ方の国籍問題は、
- 韓国側の家族関係登録(家族関係証明書・基本証明書・除籍謄本等)がきちんと済んでいるか
- 出生時点でどちらの国籍を取得していたか
- 親の帰化によってご本人の国籍がどう変動した(あるいはしていない)か
- 二重国籍である場合、国籍選択の期限との関係でどのような対応が必要か
という順序で、事実関係を一つずつ積み上げて確認していく必要があります。特に韓国側の資料は、2008年の制度移行や登録基準地の特定、代理取得に関する公館の運用など、日本の戸籍とは異なる独特のルールがあるため、ご自身やご家族だけで読み解くのは難しいことも多い分野です。
該当する可能性がある方は、日本の戸籍謄本・改製原戸籍・韓国側の家族関係証明書や除籍謄本一式をお持ちのうえ、専門家にご相談されることをお勧めします。
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