
事業承継・M&A補助金について
― 概要、対象類型、申請実務を熊本の行政書士が解説 ―
認定経営革新等支援機関
行政書士法人塩永事務所(熊本市)
1.はじめに
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者等が、事業承継やM&Aを契機として経営資源を円滑に引き継ぐための取組を支援する補助金である。令和7年度補正予算に基づき実施されており、専門家活用、事業承継に伴う設備投資、PMI、廃業・再チャレンジなど、事業承継・M&Aの複数の局面を対象としている。
本補助金は、単なる「買収費用の補助」にとどまらず、承継前後の設備投資、M&Aの専門家費用、統合プロセスに要する経費、廃業を含む事業整理費用までを支援対象とする点に特徴がある。したがって、売り手・買い手双方にとって、実務上の活用余地が大きい制度といえる。
2.2026年6月時点の公募状況
中小企業庁は2026年5月22日付で、事業承継・M&A補助金(十五次公募)の公募要領を公表している。十五次公募の申請受付期間は、2026年6月19日から7月24日17時までと案内されている。
補助金は、事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠等の類型ごとに要件や補助率、補助上限額が異なる。補助率は概ね3分の1から3分の2、補助上限額は最大2,000万円とされており、金額規模は大きい一方で、申請書類の完成度と事業計画の具体性が厳格に審査される。そのため、開示済みの公募要領を踏まえた早期準備が重要である。
3.主な支援類型
2026年6月時点での事業承継・M&A補助金は、主として次の類型で構成されている。
(1)事業承継促進枠
親族内承継または従業員承継を予定している事業者が、承継前後に必要となる設備投資等を行う場合に利用する類型である。老朽設備の更新、作業環境の改善、新規需要への対応に向けた設備投資、店舗・事務所の改装等が対象となり得る。
(2)専門家活用枠
M&Aの実施に際し、M&A支援機関登録制度に登録されたFAや仲介業者、士業等の専門家に支払う手数料・報酬の一部を支援する類型である。買い手支援類型、売り手支援類型、小規模事業者向けの売り手支援類型、さらには売上高100億円規模を目指す企業向けの特例類型などが設けられている。
(3)PMI推進枠
M&A成立後の統合プロセス、いわゆるPMI(Post Merger Integration)に関する専門家費用や、統合に伴う設備投資等を支援する類型である。M&Aは成約がゴールではなく、その後の統合作業が円滑に進まなければ十分なシナジーを発揮できないことから、PMI推進枠は実務上の重要性が高い。
(4)廃業・再チャレンジ枠
事業承継やM&Aとあわせて既存事業を廃業する場合に、廃業手続きや事業整理に要する費用を支援する類型である。複数事業の整理や不採算部門の廃止を行い、承継対象となる事業に経営資源を集中させる場合などに活用される。
4.補助対象となる費用の考え方
補助対象経費の範囲は類型ごとに細かく定められているが、概ね次のような費用が想定される。
- 事業承継前後の設備更新・改装等の投資費用
- M&A専門家(登録M&A支援機関、士業など)に対する仲介手数料、FA報酬、アドバイザリー費用
- PMIに要するコンサルティング費用やシステム導入費用
- M&A後の統合に必要な設備投資費用
- 廃業・事業整理に伴う撤去費用、在庫処分費用等
なお、名目上補助対象経費に該当するものであっても、申請時点での計画の具体性、契約関係の整理状況、補助事業期間との時間的整合性などにより、対象外と判断される場合がある。したがって、事前に公募要領および事務局への確認を行うことが望ましい。
5.申請実務上の留意点
事業承継・M&A補助金の申請にあたっては、特に次の点に留意する必要がある。
(1)対象類型の選定
自社が「承継前後の設備投資」を主眼とするのか、「M&A専門家費用」の補助を重視するのか、「PMI費用」や「廃業費用」を補助対象としたいのかを明確にしなければならない。類型の選定を誤ると、要件不適合により審査で不利となるおそれがある。
(2)事業計画の整合性
補助事業として計画する内容は、事業承継またはM&Aの目的と整合していなければならない。単に費用を補助してもらうことを目的とした計画ではなく、事業の継続性、収益性、地域経済や雇用への波及効果など、承継の意義を説得的に説明する必要がある。
(3)契約関係の整理
M&A案件では、秘密保持契約(NDA)、基本合意書(LOI)、株式譲渡契約、事業譲渡契約など、複数の契約書が関係する。これらの契約内容と補助事業計画書の記載に齟齬がある場合、審査上の大きなリスクとなるため、関係書類の整合性を事前に確認しておくことが重要である。
(4)実施時期の管理
補助事業期間、契約締結の時期、発注・支払・納品の時期が、公募要領に定めるルールに適合しているかを確認する必要がある。特に、採択前に着手できない経費や、事前着手が認められる経費の区分については注意を要する。スケジュール管理が不十分な場合、補助対象外となる支出が発生し得る。
(5)電子申請の事前準備
本補助金の申請は、Jグランツを利用した電子申請に限定されている。申請者は、GビズIDプライムアカウントの取得等を早期に行い、締切間際の申請集中に備える必要がある。
6.熊本での実務上の意義
熊本県内においても、経営者の高齢化や後継者不在が課題となっている中小企業・小規模事業者は少なくない。地域に根ざした事業の継続、雇用の維持、設備更新に伴う資金負担の軽減といった観点から、本補助金の活用余地は大きい。
特に、親族内承継や従業員承継を予定している事業者は、事業承継促進枠を活用することで、老朽設備の更新や店舗改装などの初期投資負担を抑え、承継後の経営安定化を図ることができる。また、M&Aにより第三者承継を行う場合には、買い手側で専門家費用やPMI費用を、売り手側で廃業整理費用を、それぞれ補助対象として検討できる。
結果として、事業承継やM&Aは単なる「株式や事業の売買」にとどまらず、「補助金制度などの公的支援を組み込んだ総合的なスキーム設計」が求められる局面が増えている。
7.当事務所の支援内容
行政書士法人塩永事務所は、認定経営革新等支援機関として、事業承継・M&A補助金に関し次のような支援を行っている。
- 事業承継・M&A補助金における対象類型の整理・選定支援
- 公募要領に基づく申請要件の確認
- 事業計画書および補助事業計画の作成支援
- 契約書、同意書、説明資料等、関係書類の整理・整合性確認
- 事業承継に伴う各種許認可、届出、名義変更手続の支援
- PMIや承継後の運営を見据えた実務面の整理支援
補助金申請は、単なる書面作成作業ではなく、事業承継またはM&A全体のスキームとの整合性を確保するプロセスである。当事務所では、早期のヒアリングを通じて現状を整理し、必要な書類およびスケジュールを明確化したうえで、円滑な申請と補助事業の実施をサポートしている。
8.まとめ
事業承継・M&A補助金は、事業承継前後の設備投資、M&A専門家費用、PMI関連費用、廃業・再チャレンジ費用などを幅広く支援する制度である。2026年6月時点では、十五次公募の申請受付期間が2026年6月19日から7月24日17時までとされており、活用を検討する事業者は、公募要領を踏まえた早期の準備が求められる。
熊本で事業承継やM&Aを進める事業者にとって、本補助金を適切に活用することにより、資金負担の軽減と円滑な承継・統合を実現できる可能性が高まる。行政書士法人塩永事務所は、認定経営革新等支援機関として、熊本の事業者の皆様に対し、補助金申請から承継後の実務整理まで一貫した支援を提供している。
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