
不動産業界向け 法改正解説
2026年法改正で変わる不動産業の行政手続きとコンプライアンス
——空き家対策・相続土地・こどもDBS・行政書士法の4分野を徹底解説
第1章空き家対策特別措置法(2023年12月改正施行)
「管理不全空家等」の新設と用途転換手続きの複雑化
1-1. 2023年改正の概要——「管理不全空家等」類型の新設と固定資産税特例の取消
空き家対策特別措置法は2023年12月13日に改正法が施行され、従来の「特定空家等」(そのまま放置すれば倒壊等のおそれがある空き家)に加え、「管理不全空家等」という新類型が創設されました。これは「放置すれば特定空家等になるおそれのある状態にある」と自治体が認める空き家を指し、特定空家等に至る前の段階での早期介入を可能にするものです。
管理不全空家等に指定された空き家の所有者が自治体からの指導・勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(小規模住宅用地で課税標準が評価額の1/6に軽減される措置)が解除されます。これにより、実質的な固定資産税負担は最大で約6倍まで増加するリスクが生じます。管理義務を果たさない所有者に対する税的なプレッシャーを高めることで、早期対応を促す仕組みが整備されています。
熊本県内においても、熊本市をはじめ各町村が管理不全空家等の認定基準を策定し、巡回調査や所有者への啓発活動を強化しています。早期の対応が税負担軽減と物件価値維持の両面で不可欠です。
1-2. 行政代執行の増加と所有者特定調査——行政書士が関与できる場面
特定空家等に対する行政代執行(強制解体)および略式代執行(所有者不明の場合の行政による代行解体)は増加傾向にあります。所有者が不明な物件については、戸籍・除籍謄本・住民票・不動産登記情報を組み合わせた複雑な所有者特定調査が必要であり、この業務は行政書士が対応できる領域に含まれます(弁護士も対応可)。
また、自治体から発送される指導通知・勧告書への対応文書の作成や、解体・修繕工事着手前に必要な各種届出手続きについても、行政書士が書類作成の専門家としてサポートできます。不動産業者として管理委託を受けている物件や仲介予定物件が管理不全空家等に該当するリスクがある場合は、早期に専門家に相談することを推奨します。
1-3. 用途転換に伴う複合的な行政手続き——民泊・福祉施設への活用
売却困難な空き家を民泊施設・飲食店・障害者グループホーム・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)等に用途転換して収益物件として再生するニーズが高まっています。こうした用途転換案件では、以下の複数の行政手続きが重複して発生します。
- 建築基準法上の用途変更確認申請(延床面積200㎡超の場合が原則対象)
- 旅館業法に基づく許可申請(簡易宿所等)または住宅宿泊事業法に基づく届出(民泊新法)
- 消防法に基づく防火対象物使用開始届
- 開発許可申請(市街化調整区域内の土地改変を伴う場合)
- 障害福祉サービス事業者の指定申請または介護保険事業者指定申請(福祉施設の場合)
市街化調整区域内の空き家については、2023年改正で新設された「空家等活用促進区域」制度の活用により、観光振興を目的とした宿泊・飲食施設や、既存集落の維持に資する賃貸住宅・グループホーム等への転用が、都市計画法の開発許可等に関して弾力的に認められるケースが増えています。
用途転換案件では、建築士(建築確認・用途変更)・行政書士(各種許認可申請)・税理士(税務)の3者連携が理想的です。不動産業者がコーディネーターとして機能し、各専門家をつなぐ体制を構築することで、顧客への一貫したワンストップ支援が実現します。
第2章相続土地国庫帰属制度(2023年4月施行)
制度の本格定着と専門家の正確な役割分担
2-1. 制度の概要と最新の運用実態
相続土地国庫帰属制度は、相続または遺贈によって取得した土地を、一定の要件を満たしたうえで負担金を納付し、国(法務大臣)に返還することができる制度です。2023年4月27日の施行以来、2024年4月に義務化された相続登記制度と連動して機能し、田畑・山林・維持コストの大きい宅地など管理困難な「負動産」の処分手段として認知が広まっています。
申請に際しては、土地1筆あたり14,000円の審査手数料(審査結果にかかわらず返還なし)を収入印紙で納付します。承認後の負担金は原則20万円/筆ですが、市街地宅地等では地目・面積に応じて数十万〜数百万円規模になる場合があります。承認から30日以内に負担金を納付しなければ承認が失効する点にも注意が必要です。
2-2. 申請書類の作成代行——3士業の役割分担を正確に把握する
申請は原則として申請者本人(または法定代理人)が行う必要がありますが、申請書および添付書類の作成代行が業として認められているのは弁護士・司法書士・行政書士の3士業に限られます(法務省公式見解)。「行政書士の独占業務」という説明は誤りであり、正確には3士業が担える業務です。各士業の役割は以下のとおりです。
| 資格 | 業務区分 | 対応可能な主な業務 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 独占業務あり | 相続登記(所有権移転登記)は司法書士の独占業務。国庫帰属申請前に相続登記が未了の場合、司法書士への依頼が必須。申請書類の作成代行も可。 |
| 行政書士 | 共同対応可 | 申請書・添付書類の作成代行。遺産分割協議書の作成(争いがない場合)。登記申請は不可。 |
| 弁護士 | 共同対応可 | 相続人間に争いがある場合の法的対応。申請書類の作成・法的助言を含むすべての対応が可能。 |
不動産仲介では解決できない「売れない土地」の出口として顧客に案内できる体制を整えることが、不動産業者の信頼性向上につながります。
2-3. 国庫帰属が認められない土地——却下・不承認事由の把握
以下の要件に該当する土地は申請が却下または不承認となります。顧客への相談段階でこれらを把握しておくことで、制度利用の可否を事前に判断し、適切な代替手段を提案できます。
- 建物が存在する土地(事前の解体工事が必要)
- 境界が不明確な土地(測量・境界確定が必要)
- 土壌汚染や地下埋設物が存在する土地
- 担保権(抵当権・根抵当権等)が設定されている土地
- 第三者が賃借・使用している土地(契約解除が必要)
- 相続人間など権利関係に争いがある土地
- 崖地等、国が管理するうえで過分な費用を要すると認められる土地
第3章こども性暴力防止法・日本版DBS(2026年12月25日施行予定)
子ども向け施設のテナント審査に求められる新たな視点
3-1. 法律の概要と段階的施行スケジュール
「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(通称:こども性暴力防止法、日本版DBS)が2026年12月25日の施行を予定しています。同法は、子どもと接する事業者に対し従事者の性犯罪歴確認を義務付けることで、教育・保育現場における子どもの安全を制度的に担保するものです。
適用対象は段階的に拡大されており、学校・保育所等は義務として、学習塾・学童保育・スポーツクラブ・音楽教室等の民間事業者はこども家庭庁の任意認定を取得することで適用対象となります。認定事業者には以下が義務付けられます。
- 従事者の性犯罪歴確認(雇入れ時・配置転換時、以降5年ごとの定期確認)
- 性犯罪歴を有する者の業務従事制限
- 従事者向け研修・相談窓口の設置・周知・啓発の実施
3-2. 不動産賃貸・管理業務への影響——テナント審査の新基準
商業ビルや複合施設において学習塾・学童保育・児童向けスポーツ施設等のテナント誘致を行う場合、当該事業者がこども性暴力防止法に基づく認定を取得し、性犯罪歴確認体制を適切に整備しているかが、今後の入居審査における重要な判断指標となります。
認定事業者の情報はこども家庭庁により公表され、事業者は認定取得を対外的な信頼性のアピールに活用できます。認定取得済みの事業者を誘致することは、施設全体のブランド価値・安心感の向上にも寄与します。
3-3. 認定申請のサポートと行政書士の役割
こども家庭庁への認定申請はオンライン申請方式で行われ、手数料は約3万円、審査期間は1〜2か月程度が目安とされています。行政書士は申請書類の作成代行に加え、体制整備に必要な服務規律規程・相談窓口設置規程・研修計画書等の内部文書の作成支援を通じて、事業者の認定取得をバックアップします。
テナント候補となる子ども向けサービス事業者に対し、認定申請のサポートができる行政書士を紹介・連携できる体制を整えることで、「安心・安全な施設」としての物件ブランディングに貢献できます。
第4章行政書士法改正(2026年1月1日施行)
無資格書類作成への罰則強化——不動産業者が直面するコンプライアンスリスク
4-1. 改正の概要と「業として」の判断基準
行政書士法第19条は、行政書士でない者が業として官公署に提出する書類を作成することを禁止しており、違反には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(行政書士法第21条)が科されます。さらに、法人の代表者や従業員が違反を行った場合には法人に対しても罰金刑が科される両罰規定が適用されます。
「業として」の判断は、反復継続性(同種の行為を繰り返す意思・実態)と営利性(対価を得る目的・実態)の有無によって広く認定されます。報酬の名目を「届出代行料」「理由書作成料」「コンサルタント料」「事務手数料」等に変えても、実質的に官公署提出書類を作成する対価として受け取っている場合は違反と判断される可能性があります。
4-2. 不動産業者が特に注意すべき書類
不動産業者が仲介業務の過程で作成しがちな書類のうち、行政書士法違反となり得るものの代表例は以下のとおりです。社内業務の棚卸しを行い、リスクのある書類作成業務を特定することが第一歩となります。
- 農地法第4条・第5条に基づく農地転用許可申請書およびその添付書類(理由書・位置図等)
- 都市計画法に基づく開発許可申請書
- 自動車の保管場所証明申請書(車庫証明)
- 建設業許可・宅地建物取引業免許の更新申請書類
- 飲食店営業許可・旅館業許可等の申請書類
「顧客の代わりに記入しただけ」「通常の補助業務の範囲」という認識は、法的には通用しません。反復継続的に対価を受けて官公署提出書類を作成している場合は、たとえ仲介業務の付随行為であっても違反と判断される可能性があります。
4-3. 外部行政書士への業務委託——リスク排除と業務効率化の両立
コンプライアンス違反のリスクを根本的に排除するとともに、業務効率化を図る現実的な解決策として、農地転用・開発許可・用途変更・各種許認可手続きを外部の行政書士事務所に完全委託する体制への移行が不動産業界で広がっています。外部委託により法的リスクを排除しつつ、不動産業者は仲介・販売・管理というコア業務に経営資源を集中できます。顧問契約による継続的な連携と、案件ごとの業務提携のいずれの形でも対応可能です。
まとめ:「付随的な事務作業」から「法的リスク管理の核心」へ
かつて不動産業界において「付随的な事務作業」として自社内で処理されてきた行政手続きは、相次ぐ法改正の積み重ねにより、今や法的リスクを左右し、顧客満足度と取引の信頼性を規定する専門業務へと再定義されています。2026年はその転換が実務の現場で明確に顕在化する年です。
空き家の用途転換支援、相続土地の国庫帰属申請、こどもDBS対応、農地転用・開発許可等の許認可手続きに関してご不明な点やご相談がございましたら、行政書士法人 塩永事務所までお気軽にお問い合わせください。認定経営革新等支援機関・登録支援機関としての知見を活かし、迅速・正確・実務的なサポートをご提供いたします。案件の性質に応じて、司法書士・弁護士・税理士等の関連士業とも連携して対応いたします。
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