
相続における「遺言執行人」とは
― 役割・権限・選任手続を熊本の行政書士が実務的に解説 ―
行政書士法人塩永事務所(熊本市中央区)
事務所紹介
行政書士法人塩永事務所は、熊本市中央区を拠点として、相続・遺言に関する手続きを専門的に支援してまいりました。
相続手続きにおいては、戸籍収集・財産調査・金融機関対応など、多岐にわたる実務を一貫して担っております。熊本市内の金融機関・法務局・公証役場との実績を有し、地域の実務運用を熟知した専門家として、迅速かつ正確な手続きの遂行をお約束いたします。
はじめに
遺言書を作成した場合、遺言者の死亡後に遺言内容を確実に実現するためには、預貯金の払戻し・不動産の名義変更・相続人への財産分配など、多数の法的手続きを適正に履行しなければなりません。
しかしながら、これらの手続きを相続人全員で行うことは、相続人間の利害関係の調整・書類収集の煩雑さ・金融機関への個別対応など、実務上多くの困難を伴います。とりわけ、相続人間に感情的対立が存在する場合や、相続人が遠方に居住している場合には、手続きが著しく遅延するリスクがあります。
このような事態を防ぎ、遺言者の最終意思を確実かつ円滑に実現するための制度が**「遺言執行人(遺言執行者)」**です。
本稿では、遺言執行人の意義・権限・選任方法・実務上の留意点について、行政書士の実務的視点から詳述いたします。
1. 遺言執行人の意義
遺言執行人とは、遺言者が死亡した後、遺言書に記載された内容を実現するための一切の行為を行う権限を有する者をいいます(民法第1012条)。
遺言執行人が選任されると、遺言の執行に必要な範囲において、相続財産の管理処分権限は遺言執行人に帰属し、相続人は遺言執行人の職務を妨害することができません(民法第1013条)。これにより、特定の相続人が遺言内容の実現を阻害するような行為を防止することができます。
遺言執行人の主な役割は、以下の3点に集約されます。
① 遺言内容の忠実な実現 遺言者の意思を正確に把握し、法令に基づいて遺言内容を実現する。
② 相続財産の適正な管理 遺言執行期間中、相続財産を善良な管理者の注意をもって管理する。
③ 相続人への適切な報告・通知 執行の状況を相続人全員に対して適時に報告し、透明性を確保する。
2. 遺言執行人の権限と義務(実務的視点)
(1)相続財産の調査・財産目録の作成(民法第1011条)
遺言執行人は、就職後速やかに相続財産を調査し、財産目録を作成して相続人全員に交付する義務を負います。
財産目録には、以下のものを網羅的に記載することが求められます。
| 財産の種類 | 調査先・調査方法 |
|---|---|
| 預貯金 | 各金融機関への残高照会・取引履歴の取得 |
| 不動産 | 法務局での登記事項証明書の取得・固定資産税評価証明書の取得 |
| 有価証券・株式 | 証券会社・信託銀行への照会 |
| 生命保険 | 各保険会社への契約確認 |
| 自動車・動産 | 陸運局照会・現地確認 |
| 負債(借入金・保証債務等) | 金融機関・信用情報機関への照会 |
財産調査の網羅性は遺言執行の品質を左右する重要な作業であり、調査漏れは後日の紛争原因となります。
(2)遺産の管理権限
遺言執行人は、遺言の執行に必要な範囲において遺産を管理する権限を有します。具体的には以下のような行為が含まれます。
- 預貯金の保全措置(解約・払戻しを防ぐための凍結対応)
- 不動産の適正な維持管理および賃料の収受
- 相続財産に対する不法行為への対応
- 第三者による財産侵害への法的措置
(3)名義変更等の各種手続の単独実施
遺言執行人は、遺言内容を実現するための以下の実務手続を相続人全員の同意を要することなく単独で行うことができます。
■ 預貯金の払戻し・解約 各金融機関に対し、遺言執行人の資格証明書・遺言書等を提示の上、払戻し・解約手続きを単独で行うことができます。相続人全員の印鑑・書類を収集する必要がないため、手続きが大幅に効率化されます。
■ 不動産の所有権移転登記 遺言による特定財産の相続人・受遺者への移転登記を、提携司法書士と連携の上、単独で申請することができます。
■ 株式・有価証券の名義変更 証券会社・信託銀行に対し、株式・投資信託等の名義変更手続きを行います。
■ 生命保険金の請求 遺言により受取人の変更が指定されている場合、保険会社への請求手続きを行います。
■ その他の財産の引渡し 遺言により特定の相続人・受遺者に引き渡すべき動産・その他財産の引渡し手続きを行います。
(4)相続人への通知・報告義務
遺言執行人には、以下の通知・報告義務が課されています。
- 就職通知: 遺言執行人に就職したことを、遅滞なく相続人全員に通知する義務
- 財産目録の交付: 作成した財産目録を相続人全員に交付する義務
- 執行状況の報告: 相続人から請求があった場合、執行の状況を報告する義務
- 終了報告: 執行が完了した際に、その結果を相続人全員に報告する義務
通知・報告義務を懈怠した場合、遺言執行人の損害賠償責任が生じるおそれがあります。
(5)遺言執行人の専権事項
以下の行為は、遺言執行人のみが行うことができる専権事項であり、相続人が代わって行うことはできません。
■ 認知の届出(民法第781条第2項) 遺言による認知が記載されている場合、遺言執行人が市区町村役場に認知届を提出します。
■ 相続人の廃除・廃除取消の申立て(民法第893条・第894条) 遺言による推定相続人の廃除または廃除取消が記載されている場合、遺言執行人が家庭裁判所に申立てを行います。
これらの行為を遺言書に記載する場合は、必ず遺言執行人を指定しておくことが不可欠です。
3. 遺言執行人を選任するメリット
(1)相続手続の迅速化
相続手続きは本来、相続人全員の協力のもとで進めることが原則です。しかしながら、相続人が多数いる場合・遠方に居住している場合・連絡が取れない相続人がいる場合には、書類の収集・押印・返送に多大な時間を要します。
遺言執行人が選任されている場合、上述のとおり各種手続きを単独で進めることができるため、相続手続全体の期間が大幅に短縮されます。
(2)相続トラブルの予防
遺産分配をめぐる相続人間の感情的対立は、相続手続きの長期化・停滞の主要な原因のひとつです。中立的立場の専門家が遺言執行人として就任することで、特定の相続人に有利・不利が生じることなく、遺言内容を公平かつ客観的に実現することができます。
また、遺言執行人が選任されている場合、相続人は執行行為を妨害することができないため(民法第1013条)、一部の相続人による財産の隠匿・処分といった事態を法的に抑止することができます。
(3)法的ミスの防止
相続手続きは、戸籍の収集・各金融機関独自の書式への対応・不動産登記の申請・相続税申告との連携など、高度な専門的知識を要する場面が多岐にわたります。専門家を遺言執行人として選任することにより、書類の不備・手続きの誤り・期限の徒過といったリスクを防止することができます。
(4)相続人の負担軽減
相続人にとって、相続発生直後は精神的に困難な時期であると同時に、多数の手続きへの対応が求められます。遺言執行人が実務を一元的に処理することで、相続人の時間的・精神的負担を大幅に軽減することができます。
4. 遺言執行人の選任方法
遺言執行人の選任方法には、以下の2つがあります。
(1)遺言書による指定
遺言者が遺言書の中で遺言執行人を指定する方法です。第三者(弁護士・行政書士・司法書士等の専門家)を指定することも、相続人の一人を指定することも法律上可能です。
実務上の留意点
- 遺言書作成時に、指定する者の事前承諾を得ておくことが望ましい
- 遺言執行人となるべき者が遺言者より先に死亡した場合に備え、予備的遺言執行人を指定しておくことが有効
- 相続人の一人を遺言執行人に指定した場合、他の相続人との利益相反が生じるリスクがある
(2)家庭裁判所への選任申立て
遺言書に遺言執行人の指定がない場合、または指定された遺言執行人が死亡・辞退した場合は、利害関係人(相続人・受遺者等)が家庭裁判所に対して遺言執行人の選任を申し立てることができます(民法第1010条)。
家庭裁判所での選任手続きの流れ
STEP 01|申立書類の準備
以下の書類を収集・作成します。
| 書類名 | 取得先・備考 |
|---|---|
| 遺言執行者選任申立書 | 裁判所書式に従い作成 |
| 遺言書(写し) | 自筆証書遺言は検認済みのもの |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 各市区町村役場 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 各市区町村役場 |
| 相続関係説明図 | 作成 |
| 申立人の住民票 | 市区町村役場 |
| 候補者の住民票(候補者がいる場合) | 市区町村役場 |
| 収入印紙(800円) | 申立手数料 |
| 郵便切手 | 裁判所の指示による |
STEP 02|家庭裁判所への申立て
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書類一式を提出します。熊本市内の場合は、熊本家庭裁判所が管轄となります。
STEP 03|家庭裁判所による審査
裁判所が遺言内容・相続関係・候補者の適格性を審査します。必要に応じて、申立人または候補者に対する照会・審問が行われる場合があります。
STEP 04|選任審判の確定
家庭裁判所が遺言執行者を選任する旨の審判を行い、審判書謄本が申立人および選任された遺言執行人に送付されます。
STEP 05|就職通知と執行開始
選任された遺言執行人は、相続人全員に対し就職を通知した上で、財産調査・財産目録の作成・各種手続きの履行を開始します。
5. 遺言執行における実務上の主な留意点
(1)財産調査の網羅性の確保
遺言執行において最も重要な作業のひとつが、相続財産の網羅的な調査です。調査漏れが生じた場合、後日相続人間の紛争原因となるほか、相続税申告における申告漏れにつながるリスクもあります。
金融機関・証券会社・不動産(未登記のものを含む)・保険契約・自動車・負債(連帯保証債務を含む)まで、漏れのない調査が求められます。
(2)相続人への適切な通知・報告の履行
遺言執行人の通知・報告義務は法令上明確に定められており、懈怠した場合には損害賠償責任が生じるおそれがあります。通知・報告は書面で行い、内容・日付を記録として保存することが実務上重要です。
(3)不動産登記・金融機関手続きの正確な履行
不動産の所有権移転登記は、書類の不備による法務局からの差し戻しが発生しやすい手続きです。登記申請は提携司法書士と連携の上、正確に行うことが求められます。
また、金融機関ごとに相続手続きの書式・必要書類が異なるため、各機関への事前確認と書類の整合性確保が不可欠です。
(4)税務申告との連携
相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告・納付が必要となります。申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められており、遺言執行のスケジュールと連動した対応が求められます。相続税申告が必要な場合は、税理士との早期連携が不可欠です。
(5)遺言執行人の辞任・解任
やむを得ない事由がある場合、遺言執行人は家庭裁判所の許可を得て辞任することができます(民法第1019条第1項)。また、遺言執行人がその任務を怠り、またはその他正当な事由がある場合には、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が解任することができます(民法第1019条第2項)。
6. 遺言執行人になれる者・なれない者
なれる者
- 成年に達した個人(相続人・受遺者・第三者を問わない)
- 法人(弁護士法人・行政書士法人等)
なれない者(民法第1009条)
- 未成年者
- 破産者
相続人を遺言執行人に指定することは法律上可能ですが、他の相続人との利益相反が生じるリスクがあること、および客観的・中立的な立場での執行が困難となる場合があることから、弁護士・行政書士・司法書士等の専門家を指定することが実務上推奨されます。
7. 遺言書の種類と遺言執行人指定の方法
遺言書には主に以下の種類があり、それぞれ遺言執行人の指定方法が異なります。
| 遺言の種類 | 特徴 | 遺言執行人の指定 |
|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 公証人が作成。最も確実性が高い | 遺言書内に明記 |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が自筆で作成。家庭裁判所の検認が必要(法務局保管制度を利用した場合を除く) | 遺言書内に明記 |
| 秘密証書遺言 | 内容を秘密にしたまま公証人に存在を証明させる | 遺言書内に明記 |
遺言執行人を確実に指定するためには、公正証書遺言の形式での作成が最も推奨されます。公正証書遺言は、公証人が内容・形式の適法性を確認した上で作成されるため、遺言書の無効リスクが極めて低く、家庭裁判所による検認も不要です。
8. 当事務所のサポート内容
当事務所では、遺言書の作成段階から遺言執行の完了まで、相続手続きに関する業務を一貫して支援しております。
提供サービス一覧
✅ 遺言書の作成支援 公正証書遺言・自筆証書遺言の文案作成、公証役場との連絡・調整、遺言執行人指定条項の設計
✅ 遺言執行人への就任・執行事務の遂行 行政書士法人として遺言執行人に就任し、財産調査から各種手続きの完了まで一貫して対応
✅ 相続財産調査・財産目録作成 金融機関・証券会社・法務局・保険会社等への網羅的な調査および財産目録の作成
✅ 預貯金解約・払戻し手続きの代行 熊本市内外の金融機関への対応実績に基づく、迅速かつ確実な手続きの代行
✅ 不動産名義変更(所有権移転登記)の連携サポート 提携司法書士との連携による登記手続きの円滑な処理
✅ 相続人調査・戸籍収集 被相続人の出生から死亡までの戸籍収集および相続関係説明図の作成
✅ 相続税申告との連携 提携税理士との連携による、相続税申告の円滑なサポート
✅ 相続手続き全般の総合支援 遺産分割協議書の作成、各種名義変更等、相続に関するあらゆる手続きへの対応
9. おわりに
遺言執行人は、遺言者の最終意思を確実に実現し、相続人の手続き上の負担を大幅に軽減する重要な制度です。しかしながら、その実務は財産調査・各種申請・関係機関との交渉など多岐にわたり、専門的な知識と経験を要する場面が少なくありません。
遺言書の作成段階で適切な遺言執行人を指定し、専門家の関与のもとで執行を行うことにより、相続手続きの迅速化・紛争防止・法的リスクの低減が期待できます。
「遺言書を作成したいが、遺言執行人に誰を指定すればよいかわからない」「すでに遺言書はあるが、執行手続きをどう進めればよいか困っている」といった段階からでも、お気軽にご相談くださいますようお願い申し上げます。
行政書士法人塩永事務所は、熊本の地域事情・金融機関の実務運用・法務局の取扱いに精通した専門家として、皆様の相続手続きを誠実かつ確実にサポートいたします。
お問い合わせ
行政書士法人塩永事務所
熊本市中央区水前寺1-9-6
| 電話 | 096-385-9002 |
| 受付時間 | 9:00〜17:00(土日祝休) |
| メール | info@shionagaoffice.jp |
| Web | 行政書士法人塩永事務所 公式サイト |
ご相談の際は、「遺言執行人について相談したい」とお申し出いただけますと、担当者へ速やかにお繋ぎいたします。
※本稿の内容は2026年1月時点の情報に基づくものです。法令改正等により内容が変更される場合がありますので、最新情報は法務省および最高裁判所の公式サイトにてご確認ください。
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