
婚前契約書に盛り込むべき特約の具体例
1. 財産に関する特約
1.1 特有財産の確認・保護
婚前契約書において最も重要な条項のひとつが、特有財産(婚姻前から各自が保有する財産)の確認です。具体的には以下のような条文が考えられます。
【条文例】
甲(夫)は婚姻前に取得した別紙記載の不動産(熊本市〇〇町〇番地)を、婚姻後も甲の特有財産とし、乙(妻)はこれに対して財産分与請求を行わないものとする。
特有財産として列挙すべき具体的な対象は、婚姻前の預貯金・株式・投資信託・不動産・車両・貴金属・骨董品・保険の解約返戻金・仮想通貨(暗号資産)・婚姻前に取得した知的財産権(著作権・特許権など)・相続または贈与により取得した財産です。
特に**婚姻前の預貯金と婚姻後の収入が同一口座で混在する「混合財産」**は、後日トラブルの原因となりやすいため、口座を分離管理する旨も合わせて定めておくことを強く推奨します。
1.2 婚姻後の財産管理方法
婚姻後の収入・支出をどのように管理するかを明確にしておくことで、金銭的なすれ違いを防ぎます。
【パターンA:完全分離型】
甲および乙は、婚姻後に各自が得た収入をそれぞれの個人口座で管理し、生活費として月額〇〇万円ずつを共同生活費口座(口座番号:〇〇〇〇)に拠出する。共同生活費口座は甲乙共同で管理し、残余は毎年末に均等分配する。
【パターンB:収入比例負担型】
生活費の負担割合は、甲の年収と乙の年収の比率に応じて毎年4月に見直し、これを基準として各自が共同口座に拠出するものとする。
【パターンC:一方管理型】
婚姻後の家計全般は乙が管理し、甲は毎月の給与手取り額の〇〇%を乙に渡すものとする。甲は月〇〇万円を小遣いとして手元に残すことができる。
1.3 不動産・住宅ローンに関する特約
マイホームの購入は婚姻後の最大の財産形成イベントのひとつです。以下の事項を明確に定めておくことが重要です。
【条文例】
婚姻後に甲乙が共同で取得する不動産については、取得資金の負担割合に応じて持分を登記するものとする。甲が婚姻前資産から頭金〇〇万円を拠出した場合、当該頭金相当額は甲の特有財産として扱い、財産分与の対象から除外する。
その他定めておくべき事項として、住宅ローンの名義・連帯保証の有無、離婚時の不動産の処分方法(売却・一方が取得)、売却時の残債処理の方法、婚姻前に一方が単独保有する不動産に他方が居住する場合の賃料相当額の取り扱いがあります。
1.4 相続・贈与財産の取り扱い
【条文例】
婚姻中に甲または乙が相続もしくは贈与により取得した財産は、取得者の特有財産とし、離婚時の財産分与の対象としない。ただし、当該財産を原資として購入した共同生活用の財産については、この限りではない。
1.5 事業資産・会社株式の保護
事業を営む方や会社の株式を保有する方にとって、婚姻による事業への影響を防ぐことは非常に重要です。
【条文例】
甲が現在代表取締役を務める〇〇株式会社の株式(〇〇株)は甲の特有財産とし、婚姻後に当該会社の株式価値が増加した場合においても、増加分を含め乙の財産分与請求の対象としない。ただし、乙が当該会社の業務に従事した場合はこの限りでなく、別途協議するものとする。
1.6 仮想通貨・投資資産に関する特約
近年の資産形成の多様化に伴い、仮想通貨や投資信託の取り扱いを明記することが重要になっています。
【条文例】
甲が婚姻前から保有するビットコイン(〇BTC)およびその婚姻後の評価増加分は甲の特有財産とする。婚姻後に甲乙の共同資金で購入した仮想通貨については共有財産とし、離婚時には時価評価のうえ均等分配する。
2. 生活・家事に関する特約
2.1 家事分担の取り決め
【条文例】
家事の分担は以下のとおりとする。料理・食材購入は乙が主担当とし、甲は週末の料理を担当する。掃除・洗濯は甲乙が交互に週単位で担当する。ゴミ出しは甲が担当する。なお、分担内容は甲乙の就労状況の変化に応じて、3ヶ月ごとに見直しを行うものとする。
家事分担は固定化しすぎず、定期的な見直し条項を設けることが長続きのコツです。育児・介護が加わった場合の再調整条項も合わせて定めることを推奨します。
2.2 就労・キャリアに関する特約
【条文例】
甲および乙は、婚姻後もそれぞれのキャリアを尊重し、転職・昇進・独立等の判断を相手に強制しないものとする。一方の転勤・海外赴任が生じた場合、双方は誠実に協議し、単身赴任・同行転居のいずれかを選択できるものとする。転居に際して生じる費用は甲乙が折半して負担する。
2.3 居住地・転居に関する特約
【条文例】
婚姻後の主たる居住地は〇〇市とする。甲の勤務地変更等により転居が必要となった場合、乙の就労状況・生活環境を最大限考慮した上で、転居の6ヶ月前までに甲乙間で協議するものとする。乙が転居に同意しない場合、甲は単身赴任を選択することができ、この場合の生活費負担は別途協議する。
2.4 生活費・小遣いに関する特約
【条文例】
甲乙は毎月の生活費として合計〇〇万円を共同口座に拠出する。各自の小遣い(自由に使える費用)は月〇〇万円とし、その使途について相手に報告・説明する義務を負わないものとする。ただし、〇〇万円を超える高額支出については事前に甲乙間で合意を得るものとする。
3. 子ども・親族に関する特約
3.1 子どもの教育方針
【条文例】
子どもの教育方針については甲乙が誠実に協議して決定するものとし、教育費は甲乙の収入比率に応じて負担する。子どもの宗教教育・習い事・進学先については、子どもの意思を最大限尊重した上で甲乙が合意して決定するものとする。
3.2 子どもの国籍・宗教に関する特約(国際結婚の場合)
【条文例】
子どもは出生時に日本国籍および〇〇国籍を取得させるものとする。子どもの宗教については特定の信仰を強制せず、成長後に子ども自身が選択できる環境を整えることを甲乙間で合意する。
3.3 親族との関係・介護に関する特約
【条文例】
甲の両親および乙の両親が介護を要する状態となった場合、介護費用は実子である甲・乙がそれぞれの両親について主として負担するものとし、配偶者に過度な負担を求めないものとする。同居の必要が生じた場合は、双方が納得できる形での解決策を誠実に協議するものとする。
3.4 万が一の離婚時の取り決め(参考条項)
親権・養育費については最終的に子どもの最善の利益が優先されるため、強制力のある取り決めは困難ですが、「基本的な考え方の共有」として以下のように記載することができます。
【条文例】
離婚時における子どもの親権・監護権については、子どもの年齢・意思・生活環境を最優先に考慮し、甲乙が誠実に協議して決定するものとする。養育費については、裁判所が公表する養育費算定表を参考にしつつ、子どもの生活水準が婚姻中と大きく変わらないよう甲乙が誠実に協議するものとする。
4. 秘密保持・プライバシーに関する特約
4.1 秘密保持条項
【条文例】
甲および乙は、婚姻中および離婚後を問わず、相手の職業上の秘密・家族に関する情報・財産状況・健康情報・その他プライバシーに関わる情報を、正当な理由なく第三者に開示しないものとする。違反した場合、被害を受けた当事者は相手方に対して損害賠償を請求できるものとする。
4.2 SNS・インターネットに関する特約
【条文例】
甲および乙は、相手の事前の書面による同意なく、相手の顔が識別できる写真・動画・個人情報をSNS(Instagram・X・TikTok等)またはインターネット上に投稿・公開しないものとする。婚姻生活に関するネガティブな情報の公開についても同様とする。
4.3 スマートフォン・通信に関する特約
【条文例】
甲および乙は、相手の同意なくスマートフォン・PC・メール等の通信内容を無断で閲覧・取得しないものとする。ただし、甲乙間で合意したアプリ・SNSアカウントについては相互に閲覧可能とする。
5. 婚姻関係・離婚に関する特約
5.1 不貞行為(浮気)に関する特約
【条文例】
甲または乙が婚姻中に不貞行為(配偶者以外との性的関係)を行った場合、不貞行為を行った者は相手方に対して慰謝料として金〇〇〇万円を支払うものとする。なお、当該条項は婚姻後〇年を経過した場合に両者の合意により見直すことができる。
慰謝料額は法外に高額な場合は公序良俗違反で無効とされる可能性があるため、相場(50万〜300万円程度)を踏まえた現実的な金額設定が重要です。
5.2 DV・ハラスメントに関する特約
【条文例】
甲および乙は、身体的・精神的・経済的・性的暴力(DV)およびハラスメント行為を一切行わないことを誓約する。万が一これらの行為が認められた場合、被害を受けた者は即時に離婚請求および損害賠償請求を行う権利を有するものとする。
5.3 婚姻関係の見直し・更新条項
【条文例】
本契約は婚姻後5年を経過した時点で甲乙間にて内容を見直すものとし、必要に応じて変更・追加を行うものとする。見直しに際しては、行政書士または弁護士等の専門家の助言を得ることを推奨する。
6. その他の特約
6.1 宗教・思想に関する特約
【条文例】
甲および乙は、相手の宗教的信念・思想・政治的見解を尊重し、特定の宗教活動・政治活動への参加を強制しないものとする。宗教上の儀式(葬儀・法事等)については甲乙が誠実に協議して対応を決定する。
6.2 健康・生活習慣に関する特約
【条文例】
甲および乙は、健康維持のために年1回以上の健康診断を受診するものとする。喫煙については居住空間内での喫煙を禁止し、飲酒については甲乙間で合意した範囲内とする。
6.3 ペットに関する特約
【条文例】
婚姻中に甲乙が共同で飼育するペットについては、離婚時に飼育環境・費用負担能力・ペットへの愛着等を総合的に考慮して甲乙が協議して帰属を決定するものとし、いずれが引き取った場合も他方が面会を求めた場合には誠実に対応するものとする。
6.4 準拠法・管轄裁判所(国際結婚の場合)
【条文例】
本契約は日本法を準拠法とし、本契約に関する紛争については熊本地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
まとめ
婚前契約書に盛り込むべき特約は、財産・生活・子ども・プライバシー・婚姻関係など多岐にわたります。重要なのは、すべての条項をお二人の実情に合わせてオーダーメイドで設計することと、定期的な見直し条項を必ず盛り込むことです。
一般的なひな形をそのまま使用すると、実態に合わない条項が含まれたり、重要な事項が抜け落ちるリスクがあります。行政書士法人塩永事務所では、丁寧なヒアリングを通じてお二人の状況に最適化した婚前契約書を作成します。
まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
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