
自動車販売店の車庫証明・登録代行と行政書士法違反のリスク
行政書士法人塩永事務所
はじめに
自動車販売店が顧客から報酬を得て車庫証明や登録書類の作成・申請代行を行う行為は、行政書士法違反(行政書士の独占業務の侵害) となります。
2026年1月施行の法改正により、罰則が強化され、法人も罰則対象となるため、今後は行政書士への委託や適切な業務フローの見直しが必須です。
重要なポイント
「無料サービス」「手数料0円」と謳っていても違反となります
- 車両本体価格に含まれるなど実質的に報酬とみなされる場合、違反となります
- 両罰規定により、法人(販売店)にも罰則が適用されます
- 罰則:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
行政書士法違反となる主なケース
自動車販売店における以下の行為は、行政書士法違反のリスクが極めて高いと考えられます。
1. 報酬を得て書類作成・代行を行うケース
以下のような名目で金銭を受け取り、書類作成・申請代行を行う行為:
- 「登録代行手数料」
- 「車庫証明代行料」
- 「納車諸費用」
- 「事務手数料」
- 「登録サポート料」
これらはすべて、行政書士の独占業務を侵害する行為とみなされます。
2. 無償サービスの実態
「無料」「サービス」「手数料0円」と表示していても、以下の場合は実質的に報酬とみなされます:
なぜ無償サービスでも違反になるのか
自動車販売は商取引であり、書類作成がその取引の一部として組み込まれている場合:
- 車両本体価格や諸費用の中に、書類作成の手間やコストが織り込まれている
- 顧客は取引全体の中で、実質的にその対価を支払っている
- 名目が「無料」でも、取引全体から経済的利益を得ていると評価される
2026年1月施行の改正行政書士法では、「いかなる名目によるかを問わず」報酬を得て書類作成を行うことが明文で禁止されます。 これは、「名目を変えればセーフ」という逃げ道をふさぐための規定です。
行政書士法第19条の考え方
行政書士法第19条は、以下の三要件すべてに該当する行為を禁止しています:
- 他人の依頼を受け
- 報酬を得て
- 業として(反復継続して)
登録・車庫証明の手続きは、店舗として日常的・反復継続して行っているため、この「業として」の要件を満たします。また、商取引の一環として実質的に対価を受け取っている場合、「報酬を得て」の要件も満たすと評価されやすくなります。
3. 名目変更の無効
名目を変更しても、実態が同じなら違反となります:
- 「手数料」を「会費」「コンサルタント料」「サポート料」などに変更
- 「代行料」を「事務作業費」「書類整理料」などに変更
改正法で「いかなる名目によるかを問わず」と明記されたのは、このような形式的な名称変更による回避を防ぐためです。実質的に書類作成・申請代行の対価であれば、どのような名目でも違反となります。
4. 電子申請(OSS)でのグレーゾーン
OSS申請に関する誤解
「OSSを使っているから行政書士法とは関係ない」という認識は誤りです。
行政書士法施行規則第20条で適用除外が認められているのは、以下の団体が構成員のために行う場合のみです:
- 自動車販売協会連合会(自販連)
- 自動車整備振興会(日整連)
- 全国軽自動車協会連合会(全軽自協)
個々の販売店・整備工場が独自に行う場合は適用除外の対象外です。
特に注意が必要なケース
OSS申請であっても、以下のような行為は書類作成とみなされる可能性があります:
- 紙ベースの書類に手を加えた上でスキャンして電子申請する
- 申請データの入力・作成を販売店が行う
- 顧客から報酬を受けて、反復継続して電子申請を代行する
紙申請かOSS申請かを問わず、販売店が報酬を受けて顧客のための書類作成・申請代理を反復継続して行うことは、行政書士法上リスクが高いと考えるべきです。
違反した場合のリスクと罰則
1. 刑事罰
行政書士法第19条違反:
- 個人(担当者): 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 法人(販売店): 100万円以下の罰金(両罰規定)
2. 両罰規定の導入
2026年1月施行の改正法により、法人も処罰対象となります。
- 違反行為をした従業員個人だけでなく
- その業務をさせていた法人(会社)も罰金が科される
「現場がサービスのつもりでやっていた」では済まされず、会社としてのコンプライアンス体制が問われます。
3. 社会的信用の失墜
- 違反行為により、事業者としての信頼を失う
- 取引先や顧客からの信用低下
- メディアでの報道による風評被害のリスク
- 従業員の士気低下
4. 顧客への返金義務
- 違法に徴収した「代行手数料」「事務手数料」などの返還を求められる可能性
- 過去に遡って返金請求される可能性
- 集団訴訟などのリスク
5. 詐欺的行為のリスク
特に悪質なケースとして、以下のような行為は刑法上の詐欺罪にも該当する可能性があります:
- 顧客から「行政書士料」として徴収しながら、実際には行政書士に依頼せず自社で作成
- 「行政書士に依頼します」と説明しながら、実際には自社で処理
2026年1月改正の重要ポイント
2025年に成立した「行政書士法の一部を改正する法律(令和7年法律第65号)」は、令和7年6月13日に公布され、2026年(令和8年)1月1日から施行されます。
改正の主なポイント
1. 「名目を問わず」の明文化
改正後の行政書士法第19条第1項:
他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第1条の3に規定する業務を行うことができない
どのような名目であっても、書類作成の対価として報酬を得ることが禁止されます。
2. 両罰規定の導入・拡大
第19条違反について、両罰規定が適用されます:
- 違法な書類作成をした担当者個人
- その業務をさせていた販売店・会社
両方が処罰対象となります。
3. 罰則の明確化
- 担当者: 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 会社: 100万円以下の罰金
4. 取締りの強化
「これまでの解釈を条文で明文化し、取締りを強化する」という位置づけです。「昔から問題にならなかったから大丈夫」という感覚は、改正後はリスクの高い考え方となります。
適法な対応方法・回避策
選択肢1:行政書士への委託
書類作成や申請手続きは、日本行政書士会連合会に登録されている正規の行政書士に依頼します。
適法な業務フロー
- 見積・契約段階 – 「車庫証明・登録手続きは提携行政書士に委任します」と明示
- 委任状の取得 – 顧客→行政書士への委任状をきちんと取る
- 業務範囲の明確化 – 販売店は書類の案内・受け渡し・進捗管理に専念
- 費用の明示 – 行政書士報酬と販売店の事務手数料を分けて表示
推奨される見積書の表記
<code>車庫証明・登録手続費用(内訳) ・行政書士報酬 ○○円 ・当店事務手数料 ○○円 ・法定費用(証紙代・手数料等) ○○円</code>
行政書士報酬と自社の事務手数料をきちんと分けて表示することが重要です。
選択肢2:本人申請
顧客(車の所有者)本人が自ら書類を作成・提出する場合は違法になりません。
販売店ができること
本人申請を支援する場合、以下の範囲であれば問題ありません:
- 必要書類の案内
- 記載例の提供
- 書類の受け渡しの取次ぎ
- 官公署への行き方・必要書類の説明
- スケジュール調整・進捗連絡
販売店ができないこと
- 申請書の作成(記入代行)
- 所在図・配置図の作成
- 書類の署名・押印の代行
- 警察署・運輸支局への申請代理
「一般的なサポート」の範囲を超えて、実質的に書類作成を行うことは避ける必要があります。
自社名義の車両の場合
名義人が販売店自身であり、顧客から報酬を受けず、自社の業務として行う登録・車庫証明については、一般的には行政書士法違反には当たりにくいと解されています。
具体例
- 社用車の登録
- 代車の登録・車庫証明
- 展示車両の登録
ただし、以下のようなケースは注意が必要です:
- 将来の転売を前提としたスキーム
- 実質的に顧客のための申請になっているケース
- 一時的な名義変更を介した迂回スキーム
個別事情によって判断が変わり得ますので、ケースごとに専門家へ相談いただいた方が安全です。
今後の対応:販売店が取るべき3つのステップ
ステップ1:業務フローの見直し
2026年1月施行の法改正に合わせ、書類作成・申請手続きの運用体制を見直します。
見直しのポイント
| 項目 | 現状(リスクあり) | 改善後(適法) |
|---|---|---|
| 書類作成 | 販売店が作成 | 行政書士が作成 |
| 申請代理 | 販売店が申請 | 行政書士が申請 |
| 費用表記 | 「登録代行料一式」 | 「行政書士報酬+事務手数料」と分離 |
| 委任状 | 販売店宛 | 行政書士宛 |
ステップ2:行政書士との連携体制の構築
無資格での代行をやめ、有資格の行政書士に業務を委託します。
行政書士との業務委託契約で定めるべき事項
- 業務範囲(どの手続きを委託するか)
- 報酬の金額と支払方法
- 情報の取扱い(個人情報保護)
- 責任分界点(どこまでが行政書士の責任か)
- 納期・スケジュール
- 契約期間と更新条件
顧客→行政書士の委任関係の明確化
- 委任状の名宛人は必ず行政書士とする
- 販売店は「取次ぎ窓口」であることを明示
- 顧客に対し、申請の代理人が行政書士であることを説明
ステップ3:社内体制の整備
法令に沿った運用体制を構築し、法令違反による罰則や社会的信用の失墜を避けます。
社内マニュアルの作成
営業スタッフ・登録担当者向けに、以下を含むマニュアルを作成:
- 行政書士法改正の概要(第19条・両罰規定)
- 違反となる行為の具体例
- NGとなる言い回し
- 適法な説明の仕方(トークスクリプト)
- 緊急時の連絡先(提携行政書士、法務担当)
NGな言い回しの例
- 「当社で全部申請まで代行します」
- 「車庫証明も登録も、手数料0円で当社がやっておきます」
- 「サービスで書類を作成しておきます」
推奨される言い回しの例
- 「車庫証明・登録の申請書の作成・提出は、当社提携の行政書士が行います」
- 「当社では、必要書類のご案内や受け渡し、日程調整などの窓口業務を担当いたします」
- 「費用には行政書士報酬が含まれております」
社内研修の実施
- 全従業員に対する法令研修
- 営業担当者向けのトーク研修
- 登録担当者向けの実務フロー研修
- 定期的なコンプライアンス研修
行政書士法人塩永事務所のサポート内容
1. 車庫証明・登録手続きの代行
当事務所では、以下の手続きを承っております:
- 普通車の新規登録+車庫証明
- 移転登録(名義変更)+車庫証明
- 住所変更に伴う変更登録+車庫証明
- 軽自動車の車庫届出(届出地域の場合)
2. 業務フローの見直し支援
- 現状の業務フローの診断
- 行政書士法に適合したフローの設計
- 見積書・注文書の改善提案
- 委任状様式の整備
3. 業務委託契約書の作成
- 販売店と行政書士間の業務委託契約書作成
- 責任範囲の明確化
- 守秘義務条項の整備
4. 社内マニュアル・研修資料の作成支援
- 営業スタッフ向けマニュアル
- 登録担当者向け実務マニュアル
- トークスクリプトの作成
- 社内研修の実施(ご要望に応じて)
5. 継続的な提携サポート
- 毎月コンスタントに台数がある販売店様向け
- 「提携行政書士」として継続的な外注先に
- 必要に応じてご訪問での打ち合わせ
- 長期的なお付き合いを想定
サービス提供エリア
現在、車庫証明・自動車登録は熊本市内に限定して承っています。
まとめ
2026年1月の行政書士法改正により、自動車販売店における車庫証明・登録代行業務は大きな転換期を迎えます。
今すぐ確認すべきポイント
- 現在の業務フローは行政書士法に適合していますか?
- 見積書・注文書の表記は適切ですか?
- 提携する行政書士は決まっていますか?
- 社内マニュアルは整備されていますか?
- 従業員への研修は完了していますか?
放置した場合のリスク
- 刑事罰(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
- 法人への罰金(100万円以下)
- 社会的信用の失墜
- 顧客への返金義務
- 従業員の士気低下
「昔からこうやってきたから」「周りもやっているから」という理由では、もはや通用しない時代になっています。
行政書士法改正を、「怖いニュース」ではなく貴店の体制を法令に合った形にするチャンスと捉え、適切な対応を進めていきましょう。
お問い合わせ
行政書士法人塩永事務所
熊本県内のディーラー様、自動車販売店様からのご相談をお待ちしております。
電話: 096-385-9002
- 業務フローの見直し相談
- 行政書士との提携相談
- 車庫証明・登録手続きの委託
- 社内マニュアル作成支援
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