
熊本県における民泊開業完全ガイド
民泊事業を始めるには、適切な法的手続きと施設基準の遵守が不可欠です。本ガイドでは、熊本県で民泊を開業するための法制度、届出方法、必要な設備、注意点について詳しく解説いたします。
行政書士法人塩永事務所では、熊本県における民泊開業の専門的サポートを提供しており、住宅宿泊事業届出から旅館業許可申請まで、幅広く対応しています。
目次
- 民泊事業の法制度
- 住宅宿泊事業法による民泊
- 旅館業法による宿泊施設
- どちらの制度を選ぶべきか
- 住宅宿泊事業届出の手順
- 必要書類
- 施設基準と設備要件
- 自治体ごとの規制
- 運営上の注意点
- 行政書士法人塩永事務所のサポート
民泊事業の法制度
民泊事業を行うには、主に以下の2つの法制度から選択します。
1. 住宅宿泊事業法(民泊新法)
制定: 平成30年(2018年)6月15日施行
特徴:
- 既存の住宅を活用して宿泊サービスを提供
- 届出制(許可制ではない)
- 年間営業日数の上限:180日
- 比較的簡易な手続き
対象者: 自宅の空き部屋や別荘、投資用マンションなどを活用したい個人・法人
2. 旅館業法
制定: 昭和23年制定、令和5年改正
特徴:
- 許可制(営業許可が必要)
- 営業日数の制限なし(年間365日営業可能)
- 施設基準が厳格
- 4つの営業形態:
- 旅館・ホテル営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業(実務上ほとんど利用されない)
対象者: 本格的に宿泊業を営みたい個人・法人
制度の比較表
| 項目 | 住宅宿泊事業法 | 旅館業法(簡易宿所) |
|---|---|---|
| 手続き | 届出制 | 許可制 |
| 営業日数 | 年間180日以内 | 制限なし(365日可) |
| 最低床面積 | 規定なし | 3.3㎡/人以上 |
| 用途地域制限 | 比較的緩い | 厳しい(住居専用地域は原則不可) |
| 管理義務 | 家主不在型は管理業者委託必須 | 自己管理可 |
| フロント設置 | 不要 | 原則不要(一定規模以上は必要) |
| 消防設備 | 必要 | 必要(より厳格) |
| 手続きの難易度 | 比較的容易 | 厳格 |
住宅宿泊事業法による民泊
住宅宿泊事業法の概要
住宅宿泊事業法は、急増する民泊サービスに一定のルールを設け、健全な民泊の普及を図るために制定されました。
法律の目的:
- 宿泊者の安全確保
- 近隣住民とのトラブル防止
- 旅館業とのバランスある発展
住宅宿泊事業法の3つの主体
1. 住宅宿泊事業者
住宅を活用して宿泊サービスを提供する者(届出が必要)。
責務:
- 適切な施設管理
- 宿泊者名簿の作成・保存
- 衛生管理
- 周辺地域への配慮
- 苦情対応
- 定期報告(2ヶ月ごと)
2. 住宅宿泊管理業者
家主不在型の民泊の管理を受託する者(国土交通大臣の登録が必要)。
業務内容:
- 住宅の維持・保全
- 宿泊者への対応
- 衛生確保
- 苦情対応等
3. 住宅宿泊仲介業者
民泊の予約サイトを運営する者(観光庁長官の登録が必要)。
代表例: Airbnb、楽天LIFULL STAY、Booking.comなど
家主居住型と家主不在型
家主居住型
定義: 届出住宅に住宅宿泊事業者が居住する形態
特徴:
- 住宅宿泊事業者自身が管理できる
- 管理業者への委託は任意
- ホームステイ型の民泊に適している
居住の要件:
- 届出住宅を生活の本拠としていること
- 宿泊者の滞在中、住宅宿泊事業者も不在でないこと
家主不在型
定義: 届出住宅に住宅宿泊事業者が居住しない形態
特徴:
- 住宅宿泊管理業者への委託が義務
- 別荘、投資用物件などが該当
- 委託契約書の締結が必要
管理業者委託が必要な業務:
- 住宅の維持保全
- 宿泊者の衛生確保
- 宿泊者の安全確保
- 外国人宿泊者への対応
- 苦情等への対応
年間営業日数180日の制限
住宅宿泊事業では、年間の宿泊日数が180日を超えてはならないという制限があります。
宿泊日数のカウント方法:
- 宿泊者を宿泊させた日数(正午から翌日正午までを1日とする)
- 複数の宿泊者がいても1日とカウント
<code>1月1日正午〜1月2日正午: 1泊 → 1日 1月2日正午〜1</code>
旅館業法による宿泊施設
年間180日を超えて営業したい場合や、本格的に宿泊業を営む場合は、旅館業法に基づく営業許可が必要です。
旅館業の種類
1. 旅館・ホテル営業
定義: 施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業・下宿営業以外のもの。
基準:
- 客室数: 5室以上
- 客室床面積: 7㎡以上/室(寝台設置の場合は9㎡以上)
- 玄関帳場(フロント)の設置: 一定規模以上の施設で必要
適している施設: ホテル、旅館、ビジネスホテル
2. 簡易宿所営業
定義: 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業。
基準:
- 客室延床面積: 3.3㎡/人以上
- 客室数の制限なし
- 玄関帳場: 原則不要
適している施設: ゲストハウス、ドミトリー、カプセルホテル、民泊
民泊に適している理由:
- 1室からでも営業可能
- 客室を共用する形態でも可
- 施設基準が比較的緩やか
3. 下宿営業
定義: 1ヶ月以上の期間を単位として宿泊させる営業。
実務上の利用: 現在はほとんど利用されていない。
簡易宿所営業許可の主な施設基準
- 客室延床面積: 3.3㎡×宿泊者数以上
- 換気設備: 適切な換気設備の設置
- 採光設備: 窓等により適切な採光
- 照明設備: 適切な照明
- 防音設備: 適切な防音措置
- 寝具: 清潔な寝具の提供
- 入浴設備または近隣の公衆浴場
- トイレ: 適切な数のトイレ
- 洗面設備
- 消防設備: 消防法に基づく設備
どちらの制度を選ぶべきか
住宅宿泊事業法を選ぶべきケース
- ✓ 自宅の空き部屋を活用したい
- ✓ 年間180日以内の営業で十分
- ✓ 初期投資を抑えたい
- ✓ 手続きを簡便にしたい
- ✓ 住居専用地域で営業したい
旅館業法(簡易宿所)を選ぶべきケース
- ✓ 年間を通じて営業したい(365日営業)
- ✓ 本格的に宿泊業を営みたい
- ✓ 将来的に規模を拡大したい
- ✓ 公共工事の宿泊施設として利用される可能性がある
判断のポイント
営業日数: 180日で足りるか? → 足りなければ旅館業法
立地: 住居専用地域か? → 住居専用地域で旅館業は原則不可(用途地域の確認が必要)
投資額: 初期投資をどれくらいかけられるか? → 住宅宿泊事業法の方が一般的に初期投資は少ない
管理体制: 自己管理できるか? → 家主不在型の住宅宿泊事業は管理業者委託が必須
住宅宿泊事業届出の手順
全体の流れ
<code>1. 事前調査(用途地域、自治体条例、建物の種類等)
↓
2. 消防署への相談・消防法令適合通知書の取得
↓
3. 必要書類の準備
↓
4. 民泊制度運営システムでの届出書作成
↓
5. 自治体への届出
↓
6. 審査(届出書受理)
↓
7. 届出番号の通知
↓
8. 営業開始</code>
ステップ1: 事前調査
用途地域の確認
都市計画法に基づく用途地域により、民泊の可否が決まります。
住宅宿泊事業法の場合:
- 基本的に全ての用途地域で営業可能
- ただし、自治体条例により制限される場合あり
旅館業法(簡易宿所)の場合:
- 第一種低層住居専用地域: 原則不可
- 第二種低層住居専用地域: 原則不可
- 第一種中高層住居専用地域: 原則不可
- 第二種中高層住居専用地域: 一定の条件下で可
- その他の地域: 基本的に可能
用途地域は、各自治体の都市計画課や熊本県のホームページで確認できます。
自治体条例の確認
熊本県および各市町村が独自の条例を制定している場合があります。
確認事項:
- 営業可能な区域の制限
- 営業可能な期間の制限
- 周辺住民への説明義務
- その他の規制
建物の種類の確認
重要: 住宅宿泊事業として届出する建物は、登記事項証明書(登記簿謄本)の「建物の種類」欄に**「居宅」**と記載されている必要があります。
登記上の種類が「居宅」でない場合:
- 「事務所」「店舗」「共同住宅」等と記載されている場合は、届出が受理されません
- 実際に人が居住していても、登記上の種類が居宅でなければNG
- 登記の種類を「居宅」に変更する必要があります
登記の変更:
- 司法書士に依頼して登記の種類変更手続きを行います
- 費用: 数万円程度
- 期間: 1〜2週間程度
ステップ2: 消防法令適合通知書の取得
民泊施設には、消防法に基づく消防設備の設置が義務付けられています。
必要な消防設備
住宅宿泊事業の場合:
- 消火器
- 誘導灯・誘導標識
- 自動火災報知設備(一定規模以上)
- 非常用照明設備(建築基準法)
設備の基準: 施設の規模、構造、宿泊定員により異なります。
消防法令適合通知書の取得手順
- 消防署への事前相談
- 物件の所在地を管轄する消防署に相談
- 図面を持参し、必要な設備を確認
- 消防設備の設置
- 必要に応じて消防設備を設置
- 有資格者による工事が必要な設備もある
- 消防法令適合通知書交付申請
- 必要書類を消防署に提出
- 申請書、図面、設備の設置を証明する書類等
- 現地確認
- 消防署職員による現地確認(立入検査)
- 消防法令適合通知書の交付
- 問題がなければ通知書が交付される
所要期間: 1〜2週間程度(消防署により異なる)
ステップ3: 必要書類の準備
後述の「必要書類」の項を参照してください。
ステップ4: 民泊制度運営システムでの届出書作成
民泊制度運営システムは、観光庁が運営するオンラインシステムです。
URL: https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/
アカウント作成
- 民泊制度運営システムにアクセス
- 「新規アカウント登録」をクリック
- メールアドレスを登録
- 届いたメールのリンクからパスワード設定
届出書の作成
システムにログインし、画面の指示に従って必要事項を入力します。
入力項目:
- 届出者情報(氏名、住所、連絡先等)
- 住宅の情報(所在地、床面積、間取り等)
- 家主居住型・不在型の別
- 管理業者の情報(家主不在型の場合)
- 宿泊者数の上限
- 営業日数の上限(自治体条例で制限がある場合)
電子申請または書面申請の選択
電子申請:
- システム上で届出が完了
- 添付書類もPDFでアップロード
- 行政書士に委任する場合は利用不可(現状)
書面申請:
- システムで作成した届出書を印刷
- 添付書類とともに自治体に提出
- 行政書士に委任する場合はこちら
ステップ5: 自治体への届出
熊本県内の主な届出先
熊本市内の物件:
- 熊本市 観光政策課
- 〒860-8601 熊本市中央区手取本町1番1号
- 電話: 096-328-2393
熊本市以外の熊本県内の物件:
- 熊本県 商工観光労働部 観光企画課
- 〒862-8570 熊本市中央区水前寺6丁目18番1号
- 電話: 096-333-2335
その他の市町村: 各市町村の観光担当課に確認してください。
提出方法
- 窓口持参
- 郵送(簡易書留等、配達記録が残る方法を推奨)
ステップ6: 審査
自治体が届出書および添付書類を審査します。
審査期間: 通常1〜2週間程度
審査内容:
- 書類の不備がないか
- 法令・条例の要件を満たしているか
- 欠格事由に該当しないか
不備がある場合は、補正を求められます。
ステップ7: 届出番号の通知
審査に問題がなければ、届出番号(例: M130000000)が通知されます。
届出番号は、以下の場所に掲示する必要があります:
- 届出住宅の見やすい場所
- 予約サイト等での表示
ステップ8: 営業開始
届出番号が通知されれば、営業を開始できます。
営業開始後の義務:
- 宿泊者名簿の作成・保存(3年間)
- 定期報告(2ヶ月ごとに宿泊日数等を報告)
- 標識の掲示
- 衛生管理・安全管理
- 苦情対応
必要書類
住宅宿泊事業の届出に必要な書類は、届出者が法人か個人か、建物の所有形態により異なります。
共通書類
1. 届出書
様式第1号。民泊制度運営システムで作成します。
記載内容:
- 届出者の氏名・住所・連絡先
- 届出住宅の所在地・床面積
- 家主居住型・不在型の別
- 管理業者の情報(家主不在型の場合)
2. 住宅の登記事項証明書
発行後3ヶ月以内のもの。
取得方法:
- 法務局窓口
- 法務局オンライン申請
重要: 建物の種類が「居宅」であることを確認してください。
3. 住宅の図面
以下の図面が必要です:
- 各階平面図(間取図)
- 設備の配置図(消防設備の位置を明示)
記載事項:
- 各室の用途(寝室、リビング、浴室、トイレ等)
- 床面積
- 消火器、誘導灯、自動火災報知設備等の位置
4. 誓約書
様式第8号。欠格事由に該当しないことを誓約する書類。
欠格事由(主なもの):
- 成年被後見人・被保佐人
- 破産者で復権を得ていない者
- 住宅宿泊事業法・旅館業法違反により刑に処せられ、その執行を終えてから5年を経過しない者
- 暴力団員または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
5. 消防法令適合通知書
管轄消防署が交付する書類。
消防法に定める基準に適合していることを証明します。
届出者が法人の場合の追加書類
6. 定款または寄附行為
会社の定款の写し(原本照合が必要)。
7. 登記事項証明書
法人の登記事項証明書(発行後3ヶ月以内)。
取得方法:
- 法務局窓口
- 法務局オンライン申請
8. 役員全員の身分証明書
取締役、監査役等の役員全員について、本籍地の市区町村が発行する「身分証明書」(発行後3ヶ月以内)。
注意: 運転免許証等の「身分証明書」とは異なります。本籍地の市区町村役場で「登記されていないことの証明書」(成年被後見人・被保佐人でないことの証明)と合わせて取得します。
建物を賃借している場合の追加書類
9. 転貸の承諾書
建物の所有者(大家)が、住宅を住宅宿泊事業に使用することを承諾する旨の書類。
記載内容:
- 所有者の氏名・住所
- 対象物件の所在地
- 住宅宿泊事業に使用することへの承諾
注意: 賃貸借契約書に「又貸し禁止」等の条項がある場合、必ず所有者の承諾を得る必要があります。承諾を得ずに民泊を行うと、契約違反となり、賃貸借契約を解除される可能性があります。
マンションの場合の追加書類
10. 管理規約の写し
分譲マンションの場合、管理規約で民泊が禁止されていないことを確認します。
民泊が禁止されている場合: 届出はできません。管理組合で規約を変更する必要があります。
その他、自治体が求める書類
自治体により、以下のような書類が必要な場合があります:
- 周辺住民への説明実施報告書
- 宿泊者への提供サービスを証明する書類(近隣スーパーのレシート等)
- 家主居住型の場合、実際に居住していることを証明する書類(住民票等)
- 管理業者との委託契約書(家主不在型の場合)
施設基準と設備要件
非常用照明設備(建築基準法)
民泊を始める上で最もハードルが高いのが、建築基準法で定められている非常用照明設備の設置です。
非常用照明設備とは
火災等の非常時に停電が発生しても、避難経路を照らすことができるよう、通常の照明とは別系統の電源で点灯する照明設備です。
要件:
- 予備電源内蔵型または別系統の電源
- 停電時に自動点灯
- 床面で1ルクス以上(蛍光灯式は2ルクス以上)の照度
- 30分間以上点灯可能
設置が必要な場合
原則: 居室・避難経路に設置が必要
設置が免除される場合(以下のいずれかに該当):
- 家主居住型かつ宿泊室の床面積が50㎡未満
- 居室から直接地上へ避難できる出口があり、その出口までの歩行距離が30m以下
- 例: アパートの1階の一室で、すぐに外に出られる
- 居室の床面積が30㎡未満で、外気に開放された避難通路がすぐ目の前にある
- 例: アパートの各階の居室
注意:
- 戸建て住宅で宿泊室の床面積が50㎡以上の場合、家主居住型でも設置が必要
- 2階建て以上の建物で宿泊室が2階以上にある場合、避難経路(階段等)に設置が必要
非常用照明設備の設置方法
工事が必要なケース:
- 別系統の電源を確保する必要がある場合
- 天井や壁に埋め込む場合
後付けタイプ:
- 予備電源内蔵型の非常用照明が市販されています
- ただし、電源ケーブルの長さが1m程度と短く、延長コードの使用は不可とされているため、コンセントの位置が限定されます
設置工事:
- 電気工事士の資格を持つ者による工事が必要
- 費用: 1箇所あたり数万円〜(工事内容による)
消防設備
消火器
設置基準:
- 延床面積150㎡以上の施設
- ただし、住宅宿泊事業の場合は延床面積に関わらず設置が推奨される
設置場所:
- 各階に1本以上
- 避難経路に設置
自動火災報知設備
設置基準:
- 延床面積や宿泊定員により設置義務が発生
- 300㎡以上の施設: 原則設置義務あり
設備内容:
- 煙感知器または熱感知器
- 受信機
- 音響装置(ベル等)
誘導灯・誘導標識
設置基準:
- 避難口誘導灯: 避難口(外部への出口)に設置
- 通路誘導灯: 避難経路の曲がり角等に設置
注意:
- 住宅宿泊事業の場合、規模により設置義務が異なります
- 管轄消防署に確認してください
衛生設備
換気設備
各居室に適切な換気設備(窓または換気扇)が必要です。
採光設備
各居室に適切な採光(窓等)が必要です。
入浴設備
- 入浴設備(浴室・シャワー)の設置
- または近隣の公衆浴場の利用案内
トイレ
- 水洗トイレの設置
- 宿泊定員に応じた適切な数
洗面設備
洗面台の設置が必要です。
いつでもお声掛けください。096-385-9002 info@shionagaoffice.jp
