
はじめに児童発達支援および放課後等デイサービスは、障害のある児童を対象に、日常生活や社会参加を支援する障害福祉サービスです。これらを組み合わせた「多機能型事業所」の開設は、地域ニーズに応じた柔軟な支援体制を構築する有効な手段です。本記事では、多機能型事業所の開設指定手続きを中心に、行政書士の視点から詳細を解説します。なお、手続きは自治体により異なるため、所管の都道府県または政令指定都市の障害福祉担当課への確認が不可欠です。1. 多機能型事業所の概要多機能型事業所とは、児童発達支援(未就学児対象)と放課後等デイサービス(就学児対象)を同一事業所で提供する形態を指します。両サービスの特性を活かし、連続性のある支援を提供することで、児童の成長段階に応じた一貫したサポートが可能です。
- 児童発達支援:未就学児(0~6歳)の発達を促す訓練や療育(例:言語療法、運動支援)。
- 放課後等デイサービス:就学児(小学生~高校生)が放課後や長期休暇中に利用する生活能力向上支援(例:学習支援、社会性向上)。
多機能型は、両サービスを同一施設・スタッフで運営し、効率的な資源活用と地域密着型のサービス提供を実現します。
2. 指定の意義とメリット多機能型事業所の開設には、都道府県知事または政令指定都市の市長からの「指定」が必要です。指定を受けることで、障害福祉サービスとして報酬請求が可能となり、国や自治体の補助金(施設整備費等)を活用できます。
メリット:
- 利用者の年齢層を広げ、長期的な支援継続が可能。
- スタッフや施設の共有による運営コスト削減。
- 地域ニーズに応じた柔軟なサービス提供(例:未就学児から就学児への移行支援)。
ただし、両サービスの基準を同時に満たす必要があり、単機能型より準備が複雑です。
3. 開設前の準備事項開設には計画的な準備が求められ、通常6~12か月の期間が必要です。主なステップは以下の通り。
- 事業計画の策定:利用対象(障害種別:発達障害、身体障害等)、定員(各サービス10~20人推奨)、収支予算を作成。地域の障害児支援ニーズを調査(自治体の障害福祉計画参照)。
- 法人設立:NPO法人、株式会社、社会福祉法人等を設立。定款に「児童福祉法に基づく障害児通所支援事業」を明記。
- 物件選定:バリアフリー対応の施設(50㎡以上推奨)。児童発達支援は療育スペース、放課後等デイサービスは学習・活動スペースを確保。消防法・建築基準法適合を確認。
- 事前相談:市区町村の障害福祉課で地域ニーズを確認後、指定権者(都道府県等)に事前協議(開設3~6か月前)。自治体主催の説明会参加が必須の場合あり。
4. 指定基準の詳細多機能型事業所は、児童福祉法および厚生労働省令に基づく人員・設備・運営基準を満たす必要があります。以下は主な基準(2025年10月時点)。
分野
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主な基準内容
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人員基準
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– 児童発達支援管理責任者(児発管)1名以上(実務経験3年以上、研修修了)。 – 保育士、児童指導員:利用者10人に対し2人以上(うち1人は有資格者)。 – 機能訓練担当職員(理学療法士、言語聴覚士等)配置が望ましい。 – 多機能型では、両サービスの兼務可能(自治体確認必須)。
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設備基準
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– 指導訓練室(1人当たり3㎡以上)、相談室、事務室。 – バリアフリー対応(スロープ、手すり)。 – 消防設備(スプリンクラー、避難経路)。 – 衛生管理(手洗い場、換気設備)。
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運営基準
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– 個別支援計画の作成・モニタリング。 – 保護者との定期面談。 – 虐待防止・個人情報保護の徹底。 – 地域連携(学校、医療機関との協力)。
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注意:2024年報酬改定により、重度障害児対応や専門職加配で報酬加算が適用される場合あり。詳細は自治体通知を確認。5. 指定申請手続きの流れ申請は開設予定月の前月15日頃までが目安。流れは以下の通り。
- 事前協議(3~6か月前):事業計画書、物件図面、スタッフ配置表を提出。自治体のフィードバックを受け修正。
- 書類準備:指定申請書、法人登記簿謄本、事業計画書、収支予算書、物件契約書、消防適合証明等。様式は自治体HPで提供。
- 申請提出:窓口または電子申請(自治体による)。審査期間は1~2か月。
- 現地調査:施設の基準適合性を確認。不備があれば補正指示。
- 指定通知:基準クリアで指定番号発行。児発管向け研修受講。
- 事業開始:指定日(通常毎月1日)からサービス開始。開始届出が必要な場合あり。
6. 注意点と支援制度
- 補助金:施設整備費補助(厚生労働省、自治体)や創業融資(日本政策金融公庫)を活用可能。申請時期は年度初めが一般的。
- 地域差:政令市は市が指定権者、県域は都道府県。
- リスク管理:消防・建築基準違反は指定却下の原因。専門家(行政書士、建築士)との連携を推奨。
- 法改正対応:2024年報酬改定や2025年予定の基準見直しに注意。厚生労働省「障害福祉サービス等情報公開システム」を参照。
おわりに児童発達支援と放課後等デイサービスの多機能型事業所は、障害児の継続的な支援と地域福祉の向上に貢献します。開設には専門知識と綿密な準備が必要ですが、適切な手続きで円滑な運営が可能です。ご不明点は、行政書士法人塩永事務所までお問い合わせください(連絡先:info@shionagaoffice.jp)。自治体への確認を怠らず、計画的な開設を進めましょう。