
民泊事業開始のための法的手続きガイド
民泊事業を開始する際には、適用される法令に応じた適切な許可取得または届出が必要です。運営形態や規模により、複数の選択肢があります。
民泊事業の法的枠組み
1. 住宅宿泊事業法(民泊新法)による届出
対象となる営業
- 年間営業日数180日以内
- 既存住宅を活用した宿泊サービス
- 1日当たりの利用者数に制限なし
届出制 都道府県知事等への届出により営業開始が可能
2. 旅館業法による許可
簡易宿所営業
- 年間営業日数の制限なし
- 多数の宿泊者を対象
- 都道府県知事等の許可が必要
旅館・ホテル営業
- より厳格な構造設備基準
- 洋式・和式の違いによる区分
- 都道府県知事等の許可が必要
3. 特区民泊(国家戦略特区)
対象地域 国家戦略特区として指定された区域のみ
特徴
- 2泊3日以上の滞在が条件
- 年間営業日数の制限なし
住宅宿泊事業法による届出手続き
届出要件
住宅の要件
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者、賃借人または転借人の居住の用に供されている家屋
年間営業日数の上限 180日(各自治体の条例により更に制限される場合あり)
届出の流れ
- 事前準備
- 用途地域等の確認
- 自治体条例の確認
- 消防法令への適合確認
- 届出書類の作成・提出
- 民泊制度運営システムを利用
- 都道府県知事等への提出
- 届出手数料の納付
- 届出番号の交付
- 届出完了後に届出番号が交付
- 営業開始可能
主な届出書類(法人の場合)
基本書類
- 住宅宿泊事業届出書
- 定款または寄附行為(原本証明要)
- 登記事項証明書(3か月以内)
- 役員全員の身分証明書(3か月以内)
- 住宅の登記事項証明書(3か月以内)
- 住宅の図面(各階平面図、設備配置図等)
- 誓約書
- 消防法令適合通知書
物件の使用権原に関する書類
- 賃貸借契約書の写し(賃借の場合)
- 転貸承諾書(転貸の場合)
- 管理組合の同意書(区分所有の場合)
その他の必要書類(該当する場合)
- 委任状(代理申請の場合)
- 住宅宿泊管理業者との契約書面の写し
- 破産手続き開始決定を受けていないことの市町村長の証明書
住宅の建物用途に関する重要な注意点
登記上の建物種類 住宅宿泊事業法の適用を受けるためには、対象建物が「住宅」として認められる必要があります。登記事項証明書の建物種類が「居宅」「共同住宅」等でない場合は、用途変更登記が必要となる場合があります。
用途変更の必要性 建物種類が「事務所」「店舗」等の場合、住宅宿泊事業の届出が受理されない可能性があります。
構造設備基準と安全確保
消防法令への適合
非常用照明設備 以下の場合を除き、設置が必要:
- 家主居住型かつ宿泊室の延床面積50㎡未満
- 宿泊室の床面積30㎡未満かつ屋外避難階段等に直接面している場合
その他の消防用設備
- 自動火災報知設備
- 誘導灯
- 消火器等
建築基準法への適合
用途変更の要否 住宅から旅館・ホテルへの用途変更が必要な場合があります(建築確認申請要)。
自治体条例による規制
営業日数の制限
多くの自治体で年間180日より短い営業日数制限を設定
営業区域の制限
- 住居専用地域での営業禁止
- 学校・病院周辺での営業制限
- その他地域特性に応じた制限
住民説明の義務
一部自治体では事前の住民説明会開催を義務化
管理業務の委託
管理業務委託の義務
家主不在型の場合 住宅宿泊管理業者への委託が義務(家主が住宅と同一の建物内に居住していない場合)
家主居住型の場合 委託は任意(ただし、宿泊室数が5室を超える場合は委託義務あり)
住宅宿泊管理業者の要件
国土交通大臣の登録を受けた事業者
事業運営上の義務
宿泊者名簿の作成・保存
- 宿泊者の氏名、住所、職業等の記録
- 3年間の保存義務
周辺地域への配慮
- 騒音防止のための説明義務
- 外国人宿泊者への多言語対応
- 緊急時連絡体制の整備
定期報告義務
都道府県知事等への定期報告(2か月ごと)
廃棄物処理
事業系一般廃棄物として適切な処理が必要
- 市町村の事業系ごみ処理ルールに従う
- 産業廃棄物該当物がある場合は適切な処理業者への委託
税務上の留意点
所得税・法人税
宿泊料収入は事業所得または不動産所得として申告
消費税
基準期間の課税売上高等により課税事業者判定
固定資産税
住宅用地特例の適用除外となる可能性
まとめ
民泊事業の開始には、住宅宿泊事業法または旅館業法のいずれかに基づく適切な手続きが必要です。また、消防法、建築基準法、自治体条例等の関連法令への適合も求められます。
事業開始前には、以下の点を十分に検討することが重要です:
- 適用法令の選択 – 事業規模や運営方針に応じた適切な法的枠組みの選択
- 構造設備基準の確認 – 消防・建築法令への適合状況の事前確認
- 自治体規制の把握 – 営業地域の条例等による制限の確認
- 管理体制の整備 – 適切な管理業務の実施または委託
複雑な法的要件を適切に満たすためには、専門家によるサポートを受けることをお勧めいたします。