
離婚協議書の公正証書について
行政書士法人塩永事務所
はじめに
離婚協議において、合意した内容を確実に履行させるために公正証書の作成は極めて重要です。特に養育費や慰謝料、財産分与などの金銭的な取り決めについては、公正証書にすることで強制執行が可能となり、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。
公正証書とは
公正証書は、法務大臣が任命した公証人が作成する公文書です。私文書である通常の離婚協議書と異なり、公正証書は高い証明力と執行力を有します。公証人法に基づき作成され、原本は公証役場で20年間保管されます。
離婚協議書を公正証書にするメリット
1. 強制執行力
公正証書に「強制執行認諾約款」を記載することで、債務者が約束を破った場合、裁判を経ることなく直接強制執行の申立てが可能です。これにより、養育費の未払いなどに対して迅速な対応ができます。
2. 高い証明力
公証人という法律の専門家が内容を確認し、当事者の意思を確認した上で作成するため、文書の真正性が担保されます。後日、合意内容について争いが生じた場合でも、証拠としての価値が非常に高くなります。
3. 心理的強制力
公正証書の存在自体が、約束を守らなければならないという心理的プレッシャーを与え、履行率の向上につながります。
4. 安全な保管
原本は公証役場で厳重に保管され、紛失や改ざんの心配がありません。当事者は正本・謄本を受け取り、必要に応じて再発行も可能です。
公正証書に記載すべき主な内容
基本情報
- 当事者(夫婦)の氏名、住所、生年月日
- 婚姻年月日、離婚予定日
- 子どもがいる場合は、氏名、生年月日
親権・監護権
- 未成年の子どもの親権者の指定
- 監護権者が親権者と異なる場合はその旨
養育費
- 支払い金額(月額)
- 支払い期間(○歳まで、大学卒業まで等)
- 支払い方法(振込先口座、支払日等)
- 増減額の条件(進学、収入変動等)
面会交流
- 面会の頻度(月○回等)
- 面会の方法(宿泊の可否、時間等)
- 連絡方法
- 特別な事情による制限事項
財産分与
- 不動産の分割方法
- 預貯金、有価証券の分割
- 退職金、保険金の取扱い
- 負債の分担
慰謝料
- 支払い金額
- 支払い方法(一括・分割)
- 支払い期限
年金分割
- 年金分割の合意
- 按分割合
その他の取り決め
- 通称使用に関する事項
- 秘密保持義務
- 今後一切の請求をしない旨(清算条項)
強制執行認諾約款について
公正証書の最大の利点である強制執行力を得るためには、「強制執行認諾約款」の記載が必要です。この約款により、債務者が金銭の支払いを怠った場合、債権者は裁判を経ることなく強制執行の申立てができます。
記載例: 「甲(債務者)は、本契約に基づく金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陥認諾する。」
ただし、強制執行が可能なのは金銭債務のみであり、面会交流の実施や物の引渡し等については強制執行できない点にご注意ください。
作成手続きの流れ
1. 事前準備
- 離婚協議書の原案作成
- 必要書類の収集(戸籍謄本、印鑑証明書等)
- 公証役場への事前相談・予約
2. 公証人との打ち合わせ
- 合意内容の確認
- 法的問題点の検討
- 文言の調整
3. 公正証書作成日の調整
- 当事者双方の都合調整
- 必要に応じて代理人の選任
4. 公正証書作成当日
- 当事者双方が公証役場に出頭
- 内容の最終確認
- 署名・押印
- 手数料の支払い
必要書類
当事者について
- 印鑑証明書(3か月以内)
- 戸籍謄本
- 身分証明書(運転免許証等)
財産関係
- 不動産登記事項証明書
- 預金通帳のコピー
- 保険証券のコピー
- その他財産を証明する書類
その他
- 年金分割のための情報通知書(年金分割を行う場合)
手数料について
公正証書作成の手数料は、公証人手数料令により定められています。主な算定基準は以下の通りです。
基本手数料
- 100万円以下:5,000円
- 100万円超200万円以下:7,000円
- 200万円超500万円以下:11,000円
- 500万円超1,000万円以下:17,000円
- 1,000万円超3,000万円以下:23,000円
※ 複数の法律行為がある場合は、それぞれについて手数料が発生します。
追加費用
- 正本・謄本の作成費用:1枚につき250円
- 送達証明:1,400円
- 執行文付与:1,400円
注意事項とポイント
1. 合意内容の明確化
公正証書作成前に、夫婦間で合意内容を明確にしておくことが重要です。曖昧な表現では、後日解釈をめぐって争いが生じる可能性があります。
2. 現実的な内容設定
養育費の金額設定等においては、支払い能力を考慮した現実的な内容にすることが重要です。過度に高額な設定は、結果的に履行されない可能性が高くなります。
3. 将来の変更に対する配慮
子どもの成長や当事者の状況変化に応じて、合意内容の変更が必要になる場合があります。変更手続きについても予め取り決めておくことをお勧めします。
4. 専門家のサポート活用
離婚協議書の作成や公正証書化は複雑な手続きです。行政書士等の専門家のサポートを受けることで、適切な内容での公正証書作成が可能になります。
当事務所でのサポート内容
行政書士法人塩永事務所では、離婚協議書の公正証書作成について以下のサポートを提供しております。
- 離婚協議書の原案作成
- 公証役場との事前調整
- 必要書類の収集支援
- 公正証書作成当日の同行
- アフターフォロー
離婚は人生の重要な局面です。将来にわたって安心できる取り決めを行うために、ぜひ専門家のサポートをご活用ください。
まとめ
離婚協議書の公正証書化は、合意内容の確実な履行を担保する重要な手段です。特に養育費のように長期間にわたる金銭的な取り決めについては、公正証書にすることで将来のトラブルを防ぐことができます。
ただし、公正証書の作成には専門的な知識と経験が必要です。適切な内容での公正証書作成のために、ぜひ専門家にご相談ください。
行政書士法人塩永事務所
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