
外国系出会い系アプリ(マッチングアプリ等)の警察関連手続き
― インターネット異性紹介事業の届出と外国事業者の実務対応 ―
近年、海外に本社を置く事業者が、日本国内向けにマッチングアプリ・出会い系サイト等を提供するケースが増えています。
このようなサービスを日本国内で展開する場合、単に「外国企業が運営している」「サーバーが海外にある」という理由だけで、日本の警察関係手続きが不要になるわけではありません。
特に、サービスが法律上の「インターネット異性紹介事業」に該当する場合には、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(いわゆる出会い系サイト規制法)に基づく事業開始届出が重要になります。
なお、最初に正確に整理しておきたいのは、この届出の直接の根拠法は、一般に「風適法」と呼ばれる風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律ではなく、上記の「出会い系サイト規制法」であるという点です。警視庁も「インターネット異性紹介事業」を独立した警察手続として案内しています。
以下、行政書士法人塩永事務所として、外国系マッチングアプリを日本で運営する場合に問題となる警察関連手続きを、実務の流れに沿って解説します。
1 そもそも「インターネット異性紹介事業」とは
法律上の名称は「インターネット異性紹介事業」です。
いわゆる「出会い系サイト」「マッチングサイト」「マッチングアプリ」であっても、名称だけで届出の要否が決まるわけではありません。
警視庁は、次の4つの要件をすべて満たすものを「インターネット異性紹介事業」と説明しています。
- 面識のない異性との交際を希望する者に対し、異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供すること
- その情報を公衆が閲覧できること
- 情報を閲覧した異性交際希望者が、電子メール等を利用して相互に連絡できること
- そのサービスを反復継続して提供すること
有償か無償かは、この4要件の判断において決定的な要素ではありません。警視庁も、いわゆるマッチングサイト・マッチングアプリが該当し得ることを明示しています。
したがって、例えば、
- 海外企業が開発したマッチングアプリ
- 海外ブランドの出会い系サービス
- 外国法人が運営する日本語版アプリ
- 日本人と外国人との交際を対象とするアプリ
- App StoreやGoogle Play等を通じて日本国内で提供するアプリ
であっても、サービスの実態が上記の要件を満たす場合には、まず「インターネット異性紹介事業」に該当するかを検討する必要があります。
2 「外国系」であること自体は、届出不要の理由にならない
外国系サービスについて、特に重要なのが「運営会社が外国法人だから日本の届出は不要なのではないか」という点です。
これは、単純には判断できません。
警察庁の解釈基準では、「事業の本拠」は日本国内における事業活動の中枢となる拠点を意味するとされ、海外に本社等を有する事業者であっても、日本国内に日本における事業活動の中枢となる拠点を設けて事業を行っている場合には、その拠点所在地を管轄する公安委員会への届出が必要とされています。
また、サーバーが海外に設置されている場合であっても、事業者が国内に所在する場合には、法律の規制対象となり、国内の事業の本拠となる事務所等を管轄する公安委員会への届出が必要とされています。
したがって、実務上は「会社の国籍」や「サーバーの所在地」だけを見るのではなく、
- 運営主体は誰か
- 日本国内に法人・支店・営業所等があるか
- 日本国内のどこでサービス運営を行っているか
- 日本向けサービスの管理・保守をどこで行っているか
- カスタマーサポートをどこで行っているか
- 日本向けサービスの意思決定をどこで行っているか
- 日本国内に事業活動の中枢となる拠点があるか
といった実態を確認することが重要です。
3 届出先は「警察署を経由した公安委員会」
インターネット異性紹介事業を開始する場合、届出先は都道府県公安委員会です。
ただし、事業者が直接公安委員会へ提出するのではなく、原則として事業の本拠となる事務所の所在地を管轄する警察署長を経由して提出します。
施行規則上も、事業開始届出書は事業の本拠となる事務所の所在地を管轄する警察署長を経由して、公安委員会に提出することとされています。
東京都の場合、警視庁は、事業開始前日までに事業開始届出書と必要な添付書類を、事業の本拠となる事務所を管轄する警察署を経由して公安委員会へ提出するよう案内しています。
4 「許可」ではなく「届出」である点に注意
この手続きは、風俗営業許可のような「許可申請」ではありません。
法律上は事業開始の届出です。
したがって、「警察の審査を受けて許可証が発行された後に営業を開始する」という制度とは異なります。
警視庁は、法に基づく届出について、警察署に書類を提出した時点で届出が完了すると案内しています。また、届出証明書は発行せず、書類の控えも発行しないため、必要な場合は提出前に自ら複写しておく必要があります。
ただし、「届出だから簡単」という意味ではありません。
届出後に欠格事由に該当することが判明した場合などには、事業廃止命令等の対象となり得ます。したがって、届出前に事業者・役員・運営体制等を精査することが重要です。
5 事業開始届出の期限
事業開始届出は、原則として、
事業を開始しようとする日の前日まで
に行います。
施行規則第1条第2項も、開始届出書について、事業を開始しようとする日の前日までに提出することを定めています。
したがって、
「まずアプリを公開して、問題があれば後から届出をする」
という進め方は適切ではありません。
日本向けサービスを正式に開始する日を決める前に、
- サービスがインターネット異性紹介事業に該当するか
- 誰が届出義務者となるか
- 事業の本拠がどこになるか
- 必要書類を揃えられるか
- 年齢確認等の運用が法令に適合しているか
を確認しておく必要があります。
6 法人が届出をする場合の主な必要書類
法人が事業者となる場合、必要書類は個別事情によって異なりますが、東京都の2026年3月27日現在の案内では、主なものとして次の書類が挙げられています。
法人側で準備する書類
- 事業開始届出書
- 役員の住民票の写し
- 役員の身分証明書
- 法人の定款の謄本
- 法人の登記事項証明書
- 欠格事由に該当しないことについての誓約書
- 送信元識別符号を使用する権限があることを疎明する資料
などです。
東京都では、法人については監査役を含む役員全員の住民票・身分証明書等が必要と案内されています。
ここでいう「役員全員」の範囲や、外国法人の場合にどのような書類を準備するかについては、国内法人を前提とした一般的な書類だけでは処理できない場合があります。
外国法人の場合は、
- 外国法人の設立証明
- 定款その他の組織を証明する書類
- 代表者・役員を証明する資料
- 日本国内における事業拠点を証明する資料
- 外国語書類の翻訳
- 日本国内での届出主体・権限者を示す資料
などについて、事前に管轄警察署と具体的に確認しておくことが重要です。
7 URL・ドメインの使用権限を証明する資料
マッチングアプリの場合、ウェブサイトだけでなく、アプリ自体がサービスの中心になることがあります。
届出実務では、サービスのURL等について、事業者がその使用権限を有することを示す資料が問題になります。
警察庁の解釈基準では、ISPやレンタル掲示板運営者等からURLの割当てを受けた際の通知書の写し等、URLを使用する権限を疎明する資料が挙げられています。
現在の東京都の届出案内でも、「送信元識別符号を使用する権限があることを疎明する資料」が必要書類として掲げられています。
外国系アプリでは、
- 日本向け公式サイト
- 日本向けアプリ
- アプリストア掲載情報
- ドメイン
- 日本語版サービス
- 運営会社表示
などが複数に分かれていることがあります。
そのため、どのURL・呼称を届出対象として整理するのかを、実際のサービス構成に即して確認する必要があります。
8 複数のアプリ・ブランドを運営している場合
一つの会社が複数のマッチングサービスを運営している場合にも注意が必要です。
警察庁の解釈基準では、同一事業者が複数の呼称やURLを用いてインターネット異性紹介事業に該当するサービスを運営している場合、事業者が同一主体である限り、これらを全体として一つの事業として扱う考え方が示されています。複数のサイトについて、それぞれ異なる呼称やURLを使用している場合も問題となります。
例えば外国企業が、
- 「A」
- 「B」
- 「C」
という3つのマッチングブランドを日本向けに提供している場合、単純に「3ブランドだから3社分」という考え方をするのではなく、誰が事業主体なのか、どのサービスを同一事業者が運営しているのかを整理する必要があります。
9 最も重要なのが「年齢確認」
届出をしただけでは、インターネット異性紹介事業の法令対応が完了したことにはなりません。
特に重要なのが、児童でないことの確認です。
法律第11条は、一定の場合に、異性交際希望者が「児童」でないことをあらかじめ確認することを事業者に求めています。
警視庁は、児童でないことの確認方法として、例えば、
- 運転免許証等の年齢・生年月日を証する書面による確認
- クレジットカードによる支払方法等、児童が通常利用できない方法による確認
- 既に年齢確認を済ませた利用者にID・パスワード等の識別符号を付与し、その後の利用時に識別符号を確認する方法
などを案内しています。
外国系アプリの場合、ここが特に問題になりやすいところです。
例えば海外サービスで一般的な、
- パスポートだけで確認する方式
- 海外発行の身分証による確認
- Apple ID・Googleアカウントによる年齢推定
- 自己申告による生年月日入力
- SNSアカウント連携
- AIによる年齢推定
などが、日本の出会い系サイト規制法上の「児童でないことの確認」として当然に認められるとは限りません。
日本向けサービスについては、日本法上認められる確認方法になっているかを別途検証する必要があります。
10 児童利用禁止の表示・伝達
年齢確認だけではありません。
法律第10条では、インターネット異性紹介事業について広告・宣伝をするとき、児童が利用してはならない旨を明らかにすることが求められています。
さらに、サービスを利用しようとする者に対しても、児童が利用してはならない旨を伝達する必要があります。
そのため、日本向けアプリについては、
- Webサイト
- アプリ内画面
- 利用規約
- 登録画面
- 広告
- App Store・Google Play等の掲載内容
を含め、実際のユーザー導線を確認することが重要です。
単に利用規約の末尾に「18歳未満禁止」と記載しているだけで十分とは限らないため、具体的な表示方法について法令・施行規則との整合性を確認します。
11 禁止誘引行為への対応
インターネット異性紹介事業者には、児童による利用を防止するだけでなく、児童の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するための措置も求められます。
つまり、警察関連手続きは「開始届を1枚出せば終わり」という制度ではありません。
実際のサービス運営において、
- 投稿監視
- 通報対応
- 禁止投稿の削除
- 児童による利用防止
- 不適切な誘引情報への対応
- アカウント停止
- ログ等の管理
- 警察等からの照会への対応体制
などを含めたコンプライアンス体制が必要になります。
12 外国系アプリでは「日本向け運用」を切り分ける
外国系マッチングアプリで実務上特に重要なのは、海外本社のグローバル仕様をそのまま日本に適用しないことです。
例えば、
「世界中で同じ本人確認システムを使っているから、日本でもそのまま使う」
という判断は危険です。
日本国内で提供するサービスについては、日本の出会い系サイト規制法・施行規則等に適合するよう、
- 登録フロー
- 年齢確認
- 禁止事項表示
- 投稿監視
- 通報機能
- 利用停止措置
- 日本語での利用規約
- 日本国内の運営体制
- 警察対応窓口
などを設計する必要があります。
13 事業の変更・廃止にも届出が必要
開始届を提出した後に、届出事項に変更が生じた場合には、変更届出が必要になります。
また、事業を廃止した場合には、事業廃止届出書を提出します。
施行規則第2条では、廃止または届出事項の変更の日から原則14日以内、登記事項証明書を添付すべき変更の場合は20日以内に提出することとされています。
そのため、
- 会社名の変更
- 代表者等の変更
- 事務所所在地の変更
- サービスの呼称変更
- URL変更
- 運営体制の変更
- 事業廃止
などについては、届出事項との関係を確認する必要があります。
特に事業の本拠となる事務所を別の都道府県へ移転する場合には、変更後の事業所所在地を管轄する公安委員会への手続きが問題となります。
14 無届営業には罰則がある
インターネット異性紹介事業について、必要な届出をしないまま事業を行った場合、刑事罰の対象となります。
出会い系サイト規制法第32条では、第7条第1項の届出をしないでインターネット異性紹介事業を行った者について、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。
また、届出について虚偽の届出をした場合等についても罰則が定められています。
したがって、「海外企業だから大丈夫」「アプリなのでサイトではない」「サーバーが海外だから日本法の対象外」といった形式的な判断は避けるべきです。
15 行政書士法人塩永事務所における実務上の確認ポイント
外国系マッチングアプリについてご相談を受ける場合、当事務所では、単に届出書を作成するだけではなく、まずサービスの実態を確認することが重要だと考えます。
第1段階 事業者の確認
- 運営法人はどこか
- 日本法人か外国法人か
- 日本国内の支店・営業所等の有無
- 代表者・役員
- 日本国内での運営担当者
- 日本国内でのカスタマーサポート体制
を確認します。
第2段階 サービスの確認
- アプリの具体的機能
- プロフィール掲載の仕組み
- 検索機能
- メッセージ機能
- マッチング機能
- 公開範囲
- 有料・無料の仕組み
- 広告・宣伝方法
を確認し、インターネット異性紹介事業の4要件に該当するかを判断します。
第3段階 日本国内の本拠の確認
外国法人の場合、
「日本国内に事業活動の中枢となる拠点があるか」
を確認します。
海外本社の存在だけではなく、日本国内で実際にどのような活動をしているかが重要です。警察庁の解釈基準でも、海外本社を有する事業者が日本国内に事業活動の中枢となる拠点を設けている場合、その所在地を管轄する公安委員会への届出が必要とされています。
第4段階 届出書類の準備
必要な法人関係書類、役員関係書類、URL等の使用権限を示す資料、誓約書その他の必要書類を準備します。
第5段階 警察署への提出
管轄警察署の担当部署と事前に確認を行ったうえで、事業開始前日までに届出を行います。
第6段階 運営開始後のコンプライアンス
届出後も、
- 年齢確認
- 児童利用禁止の表示・伝達
- 投稿等の監視
- 禁止情報への対応
- 変更届
- 廃止届
- 警察からの照会等への対応
を継続して管理します。
16 「外国系マッチングアプリ」の場合に特に注意すべき5項目
外国企業が日本向けにマッチングアプリを展開する場合、特に次の5点を最初に確認することをおすすめします。
① 日本法上の「インターネット異性紹介事業」に該当するか
名称ではなく、実際のサービス構造で判断します。
② 日本国内の「事業の本拠」がどこか
外国本社・海外サーバーの存在だけで判断しません。
③ 日本法に適合した年齢確認が実装されているか
海外仕様の年齢確認システムをそのまま利用できるとは限りません。
④ 児童利用禁止の表示・伝達と監視体制が整っているか
届出とは別に、事業者としての継続的な義務があります。
⑤ 外国法人の書類をどのように警察へ提出するか
外国法人の場合、国内法人と同じ書類をそのまま準備できるとは限らないため、管轄警察署との事前調整が重要です。
17 「風適法」との関係
最後に、用語を整理しておきます。
「風適法」は、正式には「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」を指します。
一方、通常のマッチングアプリ・出会い系サイトについて問題となる「インターネット異性紹介事業の届出」は、**「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」**に基づく制度です。
警視庁の行政手続案内でも、「風俗営業等」と「インターネット異性紹介事業」は別の手続カテゴリーとして整理されています。
したがって、外国系マッチングアプリについて相談を受けた場合には、
「風適法の許可が必要か」
だけを検討するのではなく、
「出会い系サイト規制法上のインターネット異性紹介事業に該当するか」
をまず検討することが適切です。
なお、アプリの具体的な機能、料金体系、広告方法、店舗・イベント等との組み合わせによっては、別の法令・条例が問題となる可能性があります。そのため、個別案件ではサービスの実態を確認したうえで総合的に判断する必要があります。
まとめ
外国系マッチングアプリを日本国内で展開する場合、「外国法人」「海外サーバー」「スマートフォンアプリ」という形式だけで日本の警察関連手続きが不要になるわけではありません。
サービスが「インターネット異性紹介事業」に該当する場合には、原則として、事業開始前日までに事業の本拠となる事務所の所在地を管轄する警察署を経由して、都道府県公安委員会への開始届出を行う必要があります。
さらに重要なのは、届出そのものだけでなく、
- 日本国内の事業本拠の確定
- 外国法人の必要書類の整理
- URL等の使用権限の確認
- 児童利用禁止の表示・伝達
- 日本法に適合した年齢確認
- 禁止誘引行為への対応
- サービス変更時の変更届
- 事業廃止時の廃止届
までを一体として設計することです。
行政書士法人塩永事務所では、外国法人・外国系サービスを含むマッチングアプリについて、サービス内容を確認したうえで、インターネット異性紹介事業への該当性、届出先、必要書類、警察署との事前協議、届出書類の作成・提出等を実務的に整理することが重要と考えています。
特に外国法人の場合は、会社の登記上の所在地だけでなく、日本国内で実際にどこでどのような事業活動を行っているのかによって手続きが変わり得ます。海外本社・日本法人・日本支店・委託先・サーバー・カスタマーサポート等の関係を整理してから、管轄警察署を確定することをおすすめします。
参考:警察庁・警視庁の公式案内
※実際の届出では、サービスの具体的仕様、事業主体、国内拠点、外国法人の組織形態等によって必要書類や管轄警察署との調整事項が異なる場合があります。個別案件では、最新の法令・所轄警察の運用を確認したうえで手続きを進める必要があります。
