
犯罪事実確認は、日本版DBS(子ども性暴力防止法)の中核をなす手続きで、子どもを性犯罪から守るために重要です。この手続きは事業者にとっても必須の法的義務であり、厳格な運用が求められます。
制度の目的と重要性
日本版DBSにおける犯罪事実確認は、何よりも子どもの安全確保を最優先にしています。一方で、従事者のプライバシーや職業選択の自由、事業者の営業の自由にも関わるため、その必要性と合理性が厳格に限定され、こども家庭庁が管理する**「こども性暴力防止法関連システム」**を通じて実施されます。
教育・保育・福祉事業者は、子どもと接する環境を安全に保つために、この確認手続きを正しく理解し、実施することが不可欠です。
犯罪事実確認の業務フロー
Step A: 事前準備・情報提供
事業者は、確認手続きの前に、以下の内容を従事者へ事前に通知し、周知徹底を図ります。
- 制度の目的と概要
- 手続きの対象となる業務
- 必要な書類
- 確認結果に応じた対応
- 個人情報管理の方針
また、以下の対象者を漏れなく洗い出しておく必要があります。
- 新規採用者
- 現職者
- 派遣社員
- ボランティア
Step B: 申請プロセス
申請は従事者本人と事業者の共同で行います。
- 従事者本人による戸籍情報登録: 従事者は、自身の戸籍情報をシステムに登録します。戸籍情報は電算化戸籍、イメージ除籍、紙媒体のいずれかの形式で提出できます。
- 事業者による申請: 事業者は、システムを通じて申請します。この際、新規従事者であるか、または**「いとま特例」**(後述)の適用があるかを記載します。
Step C: 行政による確認・照会
事業者の申請後、行政による厳格な確認作業が始まります。
- 本人確認: こども家庭庁が、システムに登録された戸籍情報と従事者本人を照合します。
- 検察への照会: 法務大臣への照会を経て、検察総合情報管理システムが、従事者に性犯罪歴がないかを確認します。
Step D: 結果通知・交付
確認が完了すると、結果が通知されます。
- 事業者への通知: 犯罪事実確認書が事業者に交付されます。
- 従事者本人への通知: 従事者本人にも通知されます。もし内容に誤りがある場合は、2週間以内に訂正請求が可能です。
Step E: 結果に応じた措置・情報管理
確認結果に基づいて、事業者は以下の措置を講じる必要があります。
- 性犯罪歴がある場合: 原則として、子どもと関わる業務に従事させることはできません。
- 「いとま特例」適用時: 採用活動の遅れや急な欠員など、やむを得ない事情で性犯罪歴がある従事者を業務に就かせなければならない場合に限り、「いとま特例」が適用されます。ただし、この場合でも以下の措置が義務付けられます。
- 子どもと1対1になる状況の禁止
- 研修の受講
- 複数の職員による対応体制の整備
これらの確認結果は最高レベルの機密情報として厳重に管理し、従事者が離職した際や、確認から5年が経過した際には速やかに完全に消去しなければなりません。
Step F: 監督・報告
制度の適正な運用を確保するため、事業者は以下の報告義務があります。
- 所轄庁による監督: 所轄庁が実施状況を定期的に監督します。
- 定期報告: 年に1回以上の定期報告が義務付けられています。
- 緊急報告: 重大な事態(性暴力の発生など)が発生した場合は、速やかに報告する必要があります。
Step G: 再発防止策の継続
性暴力の発生や制度違反があった場合は、以下のプロセスを継続的に実施し、再発防止に努めることが推奨されています。
- 要因分析
- 改善策の策定
- 改善策のモニタリング
実務担当者向けチェックリスト
- 説明資料の準備: 制度の目的や手続きに関する説明資料と、必要書類のリストを準備します。
- 申請手続き: 従事者の戸籍情報登録とシステム申請を確実に行います。
- 結果対応: 結果通知を受けたら、内容を確認し、従事者からの訂正請求に対応します。
- 防止措置の徹底: 確認結果に応じた適切な配置転換や、「いとま特例」適用時の体制確保を徹底します。
- 情報管理: 記録の作成、保管、そして廃棄スケジュールを厳格に管理します。
- 報告義務の遵守: 年に1回の定期報告と、緊急時の即時報告を行います。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 従事者が戸籍提出を拒否したら?
- 戸籍提出は、子どもと関わる業務に就くための法的義務です。事前説明を徹底し、それでも拒否する場合は業務命令違反とみなし、就業規則に基づき対応することになります。
- Q2. 「いとま特例」はいつ使える?
- 採用活動の遅れや急な欠員など、やむを得ない場合に限定的に使用されます。
- Q3. システム障害時は?
- システムの復旧を待つか、緊急の場合はこども家庭庁に直接相談してください。
事業者が今すぐできる準備
- 就業規則や雇用契約書に、犯罪事実確認に関する項目を新たに追加します。
- 従事者向けに、制度の目的と手続きを説明するための資料を作成します。
- 戸籍情報取得の流れを事前に確認し、スムーズに手続きが進められるようにします。
- システム環境を整備し、緊急事態にも対応できる体制を構築します。
まとめ
日本版DBSの犯罪事実確認は、単なる事務手続きではなく、子どもたちの安全を守るための重要な使命です。全国の事業者は、手続きの透明性、正確性、継続性、機密性を確保し、子どもたちが安心して過ごせる環境を築くことが求められます。
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