
お酒の輸出に必要な免許と書類国内の酒類市場では、飲食店やホテルの営業制限などによる売上低迷を背景に、多くの酒類メーカーや問屋が海外市場への輸出に活路を見出しています。特に、日本食ブームや健康志向の高まりに伴い、日本酒や焼酎、ウイスキーなどの輸出需要が増加傾向にあります。国税庁も輸出推進を支援しており、海外展示会などの取り組みを通じて、酒類輸出を後押ししています。しかし、酒類の輸出には国内販売とは異なる厳格な手続きが必要です。本稿では、酒類輸出に必要な「輸出酒類卸売業免許」と「公的書類」の取得について、詳細に解説します。酒類輸出の概要食品の輸出自体は、海外の取引先を見つけ、商品内容や価格、支払条件を定めた契約を締結し、商品を出荷する流れです。国内販売の延長線上と考える方もいますが、酒類の輸出では以下の2つの公的手続きが必須です:
- 輸出酒類卸売業免許の取得:日本国内で酒類を輸出する権利を得るための免許申請。
- 輸出先国の公的書類の準備:輸出先国の輸入通関で求められる証明書類の取得。
これらの手続きを怠ると、商品が輸出先に到着しても通関できず、廃棄や積み戻しといったリスクが生じます。以下で、それぞれの手続きを詳しく解説します。
1. 輸出酒類卸売業免許とは免許の概要輸出酒類卸売業免許は、自己が直接海外の消費者や酒類取扱業者に酒類を輸出するために必要な免許です。以下の点に注意が必要です:
- 対象:海外への直接輸出(消費者や海外のインポーター向け)に限定。
- 制限:国内の他の輸出業者に酒類を卸売する場合は、別の「酒類卸売業免許」が必要。
- 小売との誤解:インターネットなどを通じた海外消費者への小売販売も、この免許が必要です。「通信販売酒類小売業免許」では対応できません。
販売可能な酒類原則として、輸出酒類卸売業免許では酒類の品目に制限はありません。ただし、申請時に提出する取引承諾書に記載された品目(例:清酒のみ)に限定される場合があります。税務署の判断により免許条件が異なるため、幅広い品目を取り扱う仕入先(酒類メーカーや卸売業者)から取引承諾書を取得することを推奨します。免許の主な要件輸出酒類卸売業免許の取得には、以下の要件を満たす必要があります:
- 人的要件
- 過去に法律違反(酒税法やその他の法令)がないこと。
- 税金(酒税を含む)の滞納や未納がないこと。
- 場所的要件
- 販売場(酒類の保管や販売業務を行う事務所)が、税務署の取締り上不適当とされない場所であること。
- 受注や事務手続きを行うための明確な事務所が必要です。単なる電話やスマートフォンでの対応は認められません。
- 経営基礎要件
- 直近の決算書で繰越損失が資本金の額を上回っていないこと。
- 直近3年間で、資本金の20%を超える欠損が3年連続で発生していないこと。
- 輸出業務に関する十分な知識と能力(貿易実務の経験)が求められます。酒類販売の経験は不要ですが、貿易実務に精通していることが重要です。酒類販売管理研修の受講で知識要件を補完可能です。
申請時の必要書類免許申請では、以下の書類が特に重要です:
- 取引承諾書:
- 仕入先:国内の酒類メーカーや卸売業者から「免許取得後に酒類を供給する」旨の同意書。
- 販売先:海外のインポーターや消費者から「免許取得後に酒類を購入する」旨の同意書。
- これらの書類は、申請時点で具体的な取引先との関係が構築されていることを証明します。
- 事業計画書:輸出先国や取引スキームを明示。
- 財務書類:直近の決算書や資本金の証明。
- 販売場の証明:事務所の賃貸契約書や登記簿謄本など。
注意点
- 貿易経験の重要性:輸出経験がない場合、審査が厳しくなる可能性があります。商社や貿易経験のあるパートナーとの連携を検討することが有効です。
- 販売場の誤解:免許は特定の販売場に紐づけられます。「法人の名義でどこでも販売可能」との誤解が多いため、販売場の所在地を明確に定める必要があります。
2. 輸出先国で必要な公的書類書類の概要酒類の輸出では、輸出先国の輸入通関手続きで求められる公的書類を事前に準備する必要があります。これらの書類は、商品の安全性や合法性を証明するもので、輸出前に取得し、輸入者に送付する必要があります。主な証明事項は以下の通りです:
- 製造施設・工程:製造施設の登録状況や製造工程の詳細。
- 原材料・添加物:原材料や添加物の安全性、残留農薬や抗生物質の検査結果。
- 産地証明:酒類の製造地を証明する書類。
- 放射能安全性証明:福島第一原発事故に関連した放射能検査結果(特に日本酒や焼酎の場合)。
- 輸入ライセンス該当証明:輸出先国で酒類が規制対象品目である場合に必要。
書類の発行機関
- 所轄の役所:厚生労働省、農林水産省、税務署など、証明内容に応じた機関。
- 商工会議所:産地証明書など、一部の書類は商工会議所が発行。
- 民間検査機関:放射能検査や原材料の安全性検査を依頼
民間検査機関が発行する証明書が必要な場合があります。例えば、放射能検査や原材料の安全性に関する証明書は、信頼できる民間検査機関に依頼することが一般的です。