
日本版DBSガイドライン:熊本県内で子どもに関わる事業者が今から準備すべきこと
2025年12月から本格運用が始まる「日本版DBS」制度は、子どもに関わる全ての事業者に影響を及ぼします。こども家庭庁が公表した運用指針は、子どもに接する職種における採用時の確認事項や対応方針を具体的に示しており、熊本県内で教育・保育・学習支援等の現場を運営されている事業者様にとって、今後の人材採用・管理において極めて重要な内容です。
日本版DBSとは何か?
DBS(Disclosure and Barring Service) とは、元々イギリスで導入されている制度で、子どもや高齢者など特に支援が必要な人々と接する職に就く人に対して、過去の性犯罪歴の有無を確認することを義務付けています。
この制度が日本でも導入され、2025年12月より「日本版DBS」として運用が開始される予定です。主な対象分野は、保育園、幼稚園、認定こども園、学校(小・中・高・特別支援学校)、放課後等デイサービス、学童クラブ、学習塾、習い事教室など、子どもと日常的に接する機会のある職場です。この制度は、子どもたちの安全を守ることを最優先に、採用・就業管理において性犯罪歴の確認を必須とすることで、性犯罪者による再犯を防ぐことを目的としています。
ガイドライン素案の重要ポイント
こども家庭庁が公表したガイドライン素案からは、事業者様が対応すべき具体的な項目が明確になっています。特に以下の点に注意が必要です。
- 募集要項への明記の義務化: 求人募集を行う際、募集要項や求人票に「性犯罪歴がないこと」を明確な採用条件として記載することが必須となります。これにより、応募者は事前に制度の存在と重要性を認識することになります。
- 確認手続きの徹底: 採用選考の過程で、面接時に対象者本人に直接性犯罪歴の有無を確認し、さらに誓約書(書面) を提出してもらうことで、その事実を記録に残すことが求められます。この手続きは、後にトラブルが発生した場合の重要な証拠となります。
- 虚偽申告への厳格な対応: もし応募者が「性犯罪歴がない」と申告したにもかかわらず、その後の調査や発覚によって虚偽申告であったことが判明した場合、これは「重大な経歴詐称」と見なされ、内定の取り消しや、既に採用済みの場合には懲戒解雇の対象となり得ます。
- 事前確認の重要性: 最も重要な点の一つとして、性犯罪歴の有無を確認せずに採用を行った場合、後から犯罪歴が判明したとしても、その犯罪歴のみを理由として内定を取り消すことや解雇することは非常に難しくなります。これは、採用後に新たに判明した事実であっても、正当な解雇理由として認められない可能性があるためです。必ず採用前にDBS制度に基づく確認を徹底する必要があります。
個人情報保護への最大限の配慮
性犯罪歴という極めてデリケートな情報を扱うため、個人情報保護への配慮は必須です。事業者様には、以下の対応が求められます。
- 対象者本人の明確な同意: 性犯罪歴の確認を行う際には、必ず対象者本人の同意を文書で取得してください。同意なく情報を取得することは許されません。
- 厳格な情報管理体制の整備: 取得した情報は、厳重なセキュリティ対策が施された環境で保管・管理する必要があります。具体的には、アクセスできる担当者を限定し、保管期間を設定(例:採用選考終了後〇年間) し、期間経過後は確実に破棄するなどの措置が必要です。
- 情報漏洩時の対応フローの明確化: 万が一情報漏洩が発生した場合に備え、迅速かつ適切に対応できるフローを事前に策定し、関係者間で共有しておくことが重要です。
- アクセス権限の限定と研修: 社内でDBS関連情報にアクセスできる担当者は最小限に絞り、個人情報保護や情報セキュリティに関する研修を定期的に実施することで、従業員の意識向上を図る必要があります。
この制度導入を機に、事業所全体の情報管理体制の見直しと個人情報保護規程の更新を並行して進めることを強く推奨します。
熊本県内の事業者が今すぐすべきこと
地域で教育や保育、子ども向けサービスを運営されている皆様にとって、この制度は単なる「法令遵守」に留まらず、保護者からの「信頼構築」に直結する極めて重要な取り組みです。子どもたちの安全を守る責任を果たすためにも、以下の準備を今すぐ開始してください。
- 募集要項や求人票の文言見直し: 上記の「募集要項への明記」に基づき、既存の募集要項や求人票に「性犯罪歴がないことを採用条件とする」旨を追記してください。
- 採用時の面談・誓約書フォーマットの整備: 面接時に性犯罪歴の有無を確認するための質問項目や、応募者に署名を求める誓約書のひな形を作成・準備してください。
- 既存職員向け説明会の実施: 制度の目的、概要、そして個人情報保護に関する重要性について、既存の全職員に対して説明会を実施し、理解を深めてもらいましょう。
- 就業規則等の更新準備: 正式なガイドラインが公表され次第、就業規則、個人情報保護規程、採用規程などをDBS制度に対応させるための改訂準備を進めてください。虚偽申告があった場合の対応なども明確に盛り込む必要があります。
- 個人情報保護体制の整備と文書化: DBSで取得する個人情報に特化した管理体制(アクセス権限、保管場所、保管期間、廃棄方法など)を具体的に定め、文書化しておきましょう。
今後の見通しと事業者様へのメッセージ
正式なガイドラインは年内にまとまる予定ですが、現段階から準備を進めておくことで、2025年12月の制度導入後も混乱なくスムーズに対応することが可能になります。
日本版DBS制度は、子どもたちを性犯罪から守るための社会全体での取り組みです。お子さまの安全を守り、保護者からより一層信頼される事業運営を目指す熊本県内の経営者の皆様にとって、この制度導入は体制強化の良いきっかけとなるでしょう。
私たちは、制度導入が円滑に進むよう、引き続き専門的な立場から事業者様への支援を行ってまいります。ご不明な点や具体的な準備でお困りのことがあれば、いつでもご相談ください。