
特定技能制度の詳細ガイド
特定技能制度とは
特定技能制度は、日本が直面する深刻な人手不足問題に対応するために創設された在留資格制度です。この制度は、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行っても、なお人材確保が困難な産業分野において、一定の専門性・技能を有する即戦力の外国人材を受け入れることを目的としています。
制度創設の背景
日本では少子高齢化の進行により、特に中小・小規模事業者を中心として人手不足が深刻化しています。これらの事業者が生産性向上や国内人材確保に努めても、なお人材不足が解消されない状況を受け、外国人材の受け入れを通じて産業基盤の維持・発展を図る必要があることから、この制度が創設されました。
特定技能の分類と詳細
特定技能の在留資格は、技能水準と業務の熟練度に応じて2つのカテゴリーに分類されます。
特定技能1号
対象者: 特定産業分野において、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人
主な特徴:
- 在留期間: 1年、6か月、または4か月ごとの更新制(通算上限5年)
- 技能水準: 試験等による確認が必要(ただし、技能実習2号を良好に修了した外国人は試験免除)
- 日本語能力: 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認(技能実習2号修了者は免除)
- 家族帯同: 原則として認められない
- 支援体制: 受入れ機関または登録支援機関による支援が必要
- 転職: 同一業種内等、一定条件下での転職が可能
特定技能2号
対象者: 特定産業分野において、熟練した技能を要する業務に従事する外国人
主な特徴:
- 在留期間: 3年、1年、または6か月ごとの更新制(上限なし)
- 技能水準: より高度な技能を試験等で確認
- 日本語能力: 試験等による確認は不要
- 家族帯同: 要件を満たせば配偶者・子の帯同が可能
- 支援体制: 受入れ機関による支援は対象外(自立性が前提)
技能実習制度との相違点
技能実習制度の目的
国際協力の推進を目的とし、日本の技術を発展途上地域へ移転することで、当該地域の経済発展を担う人材育成に寄与することを主眼としています。
特定技能制度の目的
日本国内の人材不足が顕著な産業分野における労働力確保を直接的な目的とし、外国人労働者として幅広い業務に従事することが可能です。
特定技能外国人受入れの詳細要件
受入れ機関(企業)は、以下の13の基準をすべて満たす必要があります:
法令遵守関係
- 法令遵守義務: 労働関係法令、社会保険関係法令、租税関係法令の規定を遵守していること
雇用管理関係
- 離職防止義務: 特定技能雇用契約締結日前1年以内または締結日以後に、同種業務従事労働者を非自発的に離職させていないこと
- 行方不明者発生防止: 契約締結日前1年以内または締結日以後に、行方不明者を発生させていないこと
- 欠格事由非該当: 5年以内の労働法令違反等の欠格事由に該当しないこと
文書管理・契約関係
- 文書作成・保管義務: 特定技能外国人の活動内容に関する文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上保管すること
- 保証金等徴収禁止: 外国人等から保証金や違約金等が徴収されていることを認識して雇用契約を締結していないこと
- 違約金契約禁止: 他者との間で違約金徴収等を定める契約を締結していないこと
支援・処遇関係
- 支援費用負担禁止: 支援に要する費用を直接・間接を問わず外国人に負担させないこと
- 派遣先基準遵守: 労働者派遣を行う場合、派遣先が上記①〜④の基準を満たすこと
- 労災保険加入: 労働者災害補償保険関係の成立届出等を適切に行っていること
体制・支払関係
- 履行体制整備: 雇用契約を継続して履行できる適切な体制が整備されていること
- 報酬支払方法: 報酬を預貯金口座への振込等により適切に支払うこと
- 分野別基準適合: 各産業分野に特有の基準に適合すること
受入れ手続きの流れ
1. 事前準備段階
- 受入れ体制の整備
- 雇用契約書の作成
- 支援計画の策定(登録支援機関への委託も可能)
2. 外国人材の選定・契約段階
- 技能・日本語能力の確認
- 雇用契約の締結
- 事前ガイダンスの実施
3. 在留資格申請段階
- 在留資格認定証明書交付申請(海外在住者)
- 在留資格変更許可申請(国内在住者)
4. 受入れ後の継続支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 定期的な面談・相談対応
- 各種届出の履行
受入れ可能分野・職種
特定技能1号(14分野)
- 介護業
- ビルクリーニング業
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設業
- 造船・船舶業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
特定技能2号(2分野)
- 建設業
- 造船・船舶業
技能実習からの移行関係
技能実習2号を良好に修了した外国人は、関連する特定技能分野において技能試験・日本語試験が免除され、スムーズに特定技能1号へ移行することが可能です。移行可能な職種の対応関係は、出入国在留管理庁の「特定技能ガイドブック」に詳細が記載されています。
具体的受入れ事例:外食業での就労
受入れまでの手続き(国内留学生の場合)
1. 試験合格
- 技能試験: 外食業技能測定試験に合格
- 日本語試験: 以下のいずれかに合格
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
2. 就業先決定
- 求人への直接応募
- 職業紹介事業者による斡旋
3. 契約・支援
- 雇用契約の締結
- 事前ガイダンス等の支援実施
4. 在留資格変更
- 在留資格変更許可申請
- 許可取得後、就業開始
外食業における従事可能業務
飲食物調理業務
客に提供する飲食料品の調理、調製、製造に関する業務
- 食材の仕込み作業
- 加熱調理・非加熱調理
- 調味・盛付け作業
- 各種飲食料品の調製
接客業務
客への飲食料品提供に必要な調理以外の業務
- 座席への案内・誘導
- メニュー提案・説明
- 注文の受付・確認
- 配膳・下膳作業
- テーブルセッティング
- 代金の受領・精算
- 商品の受け渡し・回収
- 予約受付・管理
- 客席環境の整備
- 顧客対応・苦情処理
店舗管理業務
店舗運営に必要な上記以外の業務
- 店舗内衛生管理全般
- 従業員のシフト管理・調整
- 求人・採用関連事務
- 従業員研修・指導業務
- 顧客情報・予約管理
- レジ・券売機の管理・保守
- 会計・経理事務
- 本部・取引先・行政との連絡調整
- 設備・機器のメンテナンス
- 食材・消耗品・備品の発注・検品・在庫管理
- メニュー企画・開発
- 販促物・広告物の作成
- 宣伝・マーケティング企画
- 店舗環境整備・改善
- オペレーション改善・効率化
- 作業マニュアル作成・改訂
外食業受入れ企業の義務
1. 基本的手続き
- ハローワークへの必要届出
- 各種社会保険・福利厚生手続きの履行
2. 支援の実施
- 生活オリエンテーションの実施
- その他必要な支援の提供(自社実施または登録支援機関への委託)
3. 業界団体への加入
- 「外食業」分野の協議会への加入(入国後または雇用後4か月以内)
- 農林水産省および協議会に対する必要な協力
4. 継続的義務の履行
- 法定の各種届出の実施
- 定期的な面談の実施
- 上記業務の自社実施または登録支援機関への委託
専門的サポートの重要性
特定技能制度は複雑な要件と継続的な義務を伴うため、制度の適切な理解と確実な手続き履行が不可欠です。行政書士法人塩永事務所では、特定技能外国人の受入れから継続的な支援まで、包括的なサポートを提供しています。
制度に関するご質問やお困りごとがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。